10月上旬、ノーベル賞各賞が次々と発表されている。2001年にノーベル経済学賞を受賞した米コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツ氏は宇沢弘文教授に薫陶を受けた教え子で、現実の経済・社会問題に根源的な立場で取り組んでいる。スティグリッツ教授は国境炭素税やグリーンファンド創設などの気候変動政策をどのように捉えたか。京都大学名誉教授で地球環境戦略研究機関シニアフェローの松下和夫氏に寄稿してもらった。(連載第6回、バックナンバーはこちら)
グローバリゼーションと地球の限界下における気候変動政策
2001年、ノーベル経済学賞を「情報の非対称性の経済学」に関する業績によってジョセフ・スティグリッツ・米コロンビア大学教授が受賞した。スティグリッツ教授は宇沢教授の教え子で、2016年3月16日に国連大学で開かれた宇沢弘文教授を追悼するシンポジウムで基調講演(※1)を行い、筆者も報告者とパネリストとして参加した。この講演の内容を基にグローバリゼーションと地球の限界下における気候変動政策を考えてみよう。
スティグリッツ教授は理論経済の著名な研究者であるとともに、米国のクリントン政権下で大統領経済諮問委員会委員長として経済政策に関与し、その後1997から2000年まで世界銀行上級副総裁(チーフエコノミスト)を務めた。若き日に宇沢教授の薫陶を受け(※2)、その後も学問的・人間的交流を続けたスティグリッツ教授は、理論経済学者として活躍するとともに、実際の経済政策立案に関与し、さらには世界銀行で途上国の開発問題の実態にも深く関わった。理論的分析に基盤を置きながらも、現実の人びとの生活を直視し、より良い経済のフレームワークを作るべく具体的な提言を精力的に行っている。明晰な理論的分析に依拠しながらも、現実の経済・社会問題に根源的な立場で取り組む姿勢は宇沢教授と共通している。