「環境規制に対応するため」、「情報開示が求められるから」、「市場へのアピールとして」。環境経営やサステナビリティ経営はそのような考え方でゴールセットされがちである。しかし、環境経営への過程における課題解決やノウハウの蓄積は新たな事業や収益の創出に繋げられるものである。本連載では、環境・農業・サステナビリティにおける事業創出について、背景や市場動向、技術動向などを整理し概説する。
最初のパートは、産業界や学術界から地球規模の社会課題解決や市場の拡大が有望視されている「バイオエコノミー」。2030年の市場規模は1.6兆ドル(約240兆円)と予測され、市場動向や技術動向が注目されている。そのポイントやビジネスチャンスについて、この市場に詳しいPwCコンサルティングのディレクター齊藤三希子氏に、4回にわたって解説してもらう。(連載第1回)
気候変動や感染症予防など地球規模の課題解決の可能性
「Bio is the new Digital」。米国の研究所MITメディアラボの創設者ニコラス・ネグロポンテ教授がかつて指摘したように、バイオテクノロジーはデジタルの次の革新的技術として産業界・学術界から注目されている。また、バイオテクノロジーは、気候変動や食料問題、エネルギー問題、感染症予防といった地球規模の社会課題を解決し得る可能性がある。
2009年に経済協力開発機構(OECD)は、バイオマス(生物資源)やバイオテクノロジー(生物工学)を活用することにより、化石資源依存型の社会・経済から脱却し、経済を成長させながら持続可能な社会を目指すことをバイオエコノミーとして提唱した(※1)。
OECDは、世界のバイオ産業市場が2030年までに1.6兆ドル規模に拡大し、主に工業(39%)、農業(36%)、健康(25%)の3分野に影響をもたらすと予測しており、各国が覇権争いを繰り広げている。
最近では、社会のあり方そのものを大きく変革するとされ、バイオトランスフォーメーション(BX)とも言われている。