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カーボンニュートラルの研究は、文系理系を含め多様な研究者による総合知が必要

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2021年7月に設立した『カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション』。約200の参加大学の代表者が集まる総会と、5つのワーキンググループでの議論・実践を通じ、カーボンニュートラル実現へ向けた取り組みを推進する。同コアリションの事務局を担う総合地球環境学研究所の副所長・谷口真人氏に、設立背景や活動の狙いなどについて聞く。

 
総合地球環境学研究所 副所長 谷口真人氏

大学の総力をまとめカーボンニュートラルに貢献

 世界において議論が急速に高まっているカーボンニュートラル。その実現へ向けては、国、地方自治体、大学、企業等のあらゆる主体が、それぞれの役割や強みに応じて取り組む必要がある。なかでも、国や地域の政策や技術革新の基盤となる科学的知見を創出し、その知を普及する使命を持つ大学の担う役割は大きい。

 『カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション』は、文部科学省、経済産業省、環境省の3省による先導のもと、カーボンニュートラルに向け積極的な取り組みを行っている、または取り組みの強化を検討する大学等による情報共有や発信の場として、2021年7月に設立。①大学等の取り組みに係る知見の横展開、②自治体や企業等との連携強化による研究成果の社会実装やニーズに応じた研究開発の推進、③国内外への発信力の強化を目的に活動を進めている。

 同大学等コアリションの事務局を担う総合地球環境学研究所(地球研)の副所長である谷口氏は「カーボンニュートラルは地球環境問題の単なる1つと捉えるのではなく、それに連なる様々な課題と一体的に考えていく必要があります」と話す。

2021年に公表された『第6期科学技術・イノベーション基本計画』では、“総合知による社会変革”がキーワードとなっている。

「カーボンニュートラルを目指すということは、いかに社会変革をしていくかということにつながります。総合知の蓄積と応用の場である大学の担う役割は大きく、事務局として、集結した大学の総力をまとめ、カーボンゼロの目標へ向け、着実に取り組みを進めていきたいと思っています」

 

5つのワーキンググループ

 

 同大学等コアリションでは現在、①ゼロカーボン・キャンパス、②地域ゼロカーボン、③イノベーション、④人材育成、⑤国際連携・協力の5つのワーキンググループを立ち上げ、課題に取り組んでいる。

ゼロカーボン・キャンパスWGは、その名の通り、キャンパスをゼロカーボン化する取り組みを進める。大学のなかでも、医学部や工学部を持つ大学と私立文系の大学とではエネルギーの消費量もCO排出量も大きく違う。同WGでは、大学をいくつかのタイプに分類し、各形態・特性に応じた脱炭素モデルの構築と横展開を目指していく。

 地域ゼロカーボンWGでは、地域のゼロカーボン化を目指し、企業や自治体ネットワーク等と連携した取り組みを進めていく。

 「大学等コアリションには約200の大学が参加していますが、各大学がそれぞれの地域でどういった貢献をしていくかというのが、地域ゼロカーボンWGの目的です。特に、自治体、企業、学術の各コミュニティをつなげていくことを、重要視しています」

 イノベーションWGでは、研究開発と社会実装の推進に向け、産学官連携の強化を目指す。2022年にはカーボンニュートラルを共通の目標とする新たな産官学民連携枠組みづくりを開始した。

 「これまでも各大学で企業との産学連携は行ってきましたが、1対1ではなく、企業グループと学術コミュニティといった幅広い単位での連携を進めていくのが、このワーキンググループのテーマです」

 また、カーボンニュートラル実現へ向けた社会変革には、科学技術だけでなく、制度の問題、人々の行動変容の問題など、人文的な要素や社会科学的な要素も必要となる。イノベーションWGでは、新たな技術や価値観、行動様式を創出するため、人文・社会科学から自然科学までの研究者が集まり議論する場の創設も検討している。

 

異なった目的を持つコミュニティを共通の課題解決へ向けてつなぐ

 4つ目のワーキンググループは人材育成WG。これは、大学のもともとの役割であり、各大学ともカーボンニュートラル人材の育成へ向けた様々なプログラムを既に開発している。今後は、そうしたプログラムの共有や大学間連携による共同教育プログラム・教材の開発を進めていく。

 また、企業、自治体、大学間の人材交流も推進していく。

 「どう人材を育成し、どこへ配置するのかまで含めたカリキュラムの作成を進めていくと同時に、初等教育から中等教育、高等教育、リカレント教育までをシームレスにつなげていく。途切れのない人材育成システムを作っていくことにも注力しています」

 そして、5つ目が国際連携・協力WG。日本と世界をつなぐ意味で、米国・欧州の大学ネットワークとの連携や国際連携による教育プログラムの研究を進める。

 「これまでの知見を、どう次に展開していくかを考えれば、アジア・アフリカにも目を向けていきたいと考えています。地球研のもつ海外機関や大学とのネットワークに加え、大学等コアリションに参加する約200の大学が持つネットワーク。それらを活かして、国際連携を進めていきます」

 カーボンニュートラルを進めていく上では、文系理系を含めた多種多様な研究者による総合知が必要だ。事務局を担う地球研では長く学際的な研究を行ってきたベースがある。さらに、課題の本質を議論するため、学術コミュニティを越え、研究者以外と一緒に研究する〈超学際研究〉を地域や企業とともに進めてきた。

 「地域が抱えている課題と学術コミュニティが抱えている課題を一体的に議論しながら研究をすすめていく。カーボンニュートラルの実現へ向けては、こうした研究のベースが必要だと思います」

 今後、『カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション』としては、まず、企業と社会、そして学術コミュニティの間でグッドプラクティスを共有し、ニーズとシーズのマッチングを進めていく。

 「企業、行政、学術コミュニティ、それぞれ活動の目的や動機は異なるかと思います。大事なのは、異なった目的を持つコミュニティが、カーボンニュートラルという共通の課題に向け、共通の行動をとれるかどうか。そこをつなげていくのが、大学等コアリションの役割だと思っています」

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