スズメやツバメなどの野鳥は、かつては身近な存在でしたが、今では都市部だけでなく、農村部においてもその数を減らしています。自然界で何が起こっているのでしょうか。
身近な小鳥の減少
時は1970年代、アパートの寝床で迎える朝は、スズメの鳴き声がやかましく目覚まし替わりにもなっていました。それから半世紀あまり過ぎた今、こうしたドラマのようなワンシーンは、餌付けでもしない限り自然発生しにくい状況かもしれません。
かつて、当たり前に存在していたスズメやツバメ。そうした身近な野鳥が、都市部に限らず農村部でも減ってきています。スズメの個体数は1980年代に比べて半分以下、地域によってはさらに減っているという報告もあります。また、石川県が長年実施している小学生のツバメ生息調査によると、ツバメの個体数も減少の一途を辿っているようです。
小鳥が減った要因は、景観の変化から容易に想像できます。高齢化等による農業の衰退で水田や耕作地が減り、身近だった里山が宅地化され、幹線道路が大きな河川のように伸び、郊外の風景がどこも似たような風景になった。利便性の向上、地域経済の発展は人間側には歓迎されますが、生態系の観点からすると、生物同士のつながりに大きな隔たりが生じたことに他なりません。

さまざまな「不足」にも直面
水域環境の変化で自然の土や植生が減り、まずは小さな昆虫類が見当たらなくなり、それらを生きる糧とする野鳥たちが苦しい状況に置かれます。実際、ツバメにとって昆虫類の減少は、子育ての成功率を下げることに直結するのです。また、ツバメの場合は道路が舗装されると、巣の材料となる泥が不足してしまいます。
雑食のスズメは穀物類も多く食べるので、ツバメほどエサに困らなそうですが、こちらは人間の居住環境の変化の影響をまともに受けています。巣作りに適した隙間の多い日本家屋が減って、スレート屋根や鉄筋コンクリ造りの集合住宅が増え、繁殖活動の難易度が爆上がりしているのです。
一応、スズメは人工物にも入り込めるので、信号機や電柱まわりの構造物など、昔はなかったような隙間を利用するケースもあります。ただし、真夏の直射日光は、相当な負担になります。猛暑日の都心で垣間見た親スズメは、乾きのせいかずっと口を開けっ放しで辛そうでした。ケーブルカバーの中から、ヒナの鳴き声はかすかに聞こえていましたが、あのような環境で無事に巣立つことができたかは疑問です。
その一方で「鳥害」も
ここまで目を通してみて、少し疑問に思うことがあるかもしれません。ハトは相変わらず街中に山ほどいるし、駅前の街路樹をねぐらにするムクドリのフン被害、海岸近くの都市部はウミネコの鳴き声による騒音害などが問題視される現状があるからです。今さらですが、益鳥とされるスズメやツバメにも、フンや米の倉庫被害など「迷惑系」の一面はあります。
このように、野鳥の個体数が増えすぎたり、あるいは急に減ってしまったり、テリトリーの変化が見られるのは、人や自然との「共存バランス」が何かしら乱れていることの現れです。こうした現状を作り出しているのは、里山環境の崩壊による非管理状態の森林、さらに近年は温暖化に伴う過酷な夏や気象災害の増加により、生き物がどんどん暮らしにくい世界になっていることが大きいと思います。
野鳥というのは、変化する環境に適応するたくましさを見せている反面、種類によってはあっという間に数を減らしてしまう存在です。人間側が受ける目先の迷惑や被害だけに捉われず、彼らの生態をより深く知ることで、我々を含めた生き物を取り囲む環境を考えるきっかけにしたいものです。
気がついたら、彼らの鳴き声がパッタリ途絶えていた。それではあまりにも遅すぎるのです。
