電力自由化・地域エネルギープロジェクト研究員 村井哲之の実践日記

(第14回 特別号)電力小売事業の販売形態と収益構造の解説(2ページ目)

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先述の例の場合、これからの1年間、1年前と全く同じ電気の使い方をした場合、今の電力会社のままなら27,880,000円、新電力に切り替えると27,342,000円となります。1店舗当たりの削減率は1.93%。年間で538,000円の電気料金の削減になります。そうは言っても、確実に下がる訳だし、200店舗もあれば削減金額は1億円です。全体からすると魅力的に見えるとの声が聞こえてきますが、はたしてそうでしょうか?!

例えば新電力に切り替えた後、猛暑になり各店舗の電気の使用量が3%増加(契約電力は頑張って維持)した場合、削減効果はどうなるでしょう。電気使用量単価は確実に上がっているのですから、削減メリットは453,160円(削減率1.59%)に減ります。

これが10%の大幅な電気使用量の増加になると、メリットはさらに減り255,200円(削減率0.85%)になります。1%を大きく割ります。

さらに、この見積書の内容を正しく理解して切り替えた顧客なら、大幅に安い契約電力単価を獲得したのですから、間違いなくデマンドコントロール(引き下げ)に積極的に取り組むことでしょう。結果、暑い夏が来て電気使用量は3%増えたものの、契約電力は逆に全店一丸の“省エネ活動”をして平均で5%、15kW下がったとしましょう。そうなると不思議なことに削減メリット金額は切り替え前後で、284,860円となり目減りします。

これまで数多くの新電力の見積りを見てきましたが、スキー場や大学等のようによほど負荷率が低いところ以外で、電気使用量単価をきちんと割引いているものを見たことがありません。少し前までは、電気使用量単価は変えないで、契約電力単価を結構引き下げる提案が大半でしたが、契約電力単価を驚くほど下げて(半額以下にして)おいて、一方で使用量単価をさらっと(2%前後)上げている提案書を見かけるようになりました。

つまり「新電力への切り替え」というビジネスモデルは、これまでの10大電力会社の収益を根底で支えてきた「デマンド制」(日本中の顧客の電力使用のピークが全て重なることは絶対にないにも関わらず、全ての顧客の年間の電気使用のピークの値に契約電力単価を掛けたものを電気の基本料金として毎月貰い続けられる)あったればこそ成立するものなのです。

「デマンド制」が崩れたら、ビジネスモデルそのものが成立しないのです。本来なら電力の自由化とは、電気を効率的に作り・売る競争です。電気使用量単価の安さを競わないで、何の自由化たるやです。一方低負荷の顧客には、電源を持った新電力は、ここにきて使用量単価を安くしています。これこそが自由化だと思います。使用量が10%増えても上がることはありませんが、殆どメリットはなくなります。先の食品スーパーもこの提案のまま採用することはないと思われます。

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