電力自由化・地域エネルギープロジェクト研究員 村井哲之の実践日記

(第14回 特別号)電力小売事業の販売形態と収益構造の解説(3ページ目)

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大事なことは、いつの時代も契約の中身を正しく理解すること、そして…

ここまで書いてきたことを正しく理解できていなかったパチンコホールのお客様は、当初、ある新電力が4店舗で年間80万円の削減提案 をもってきたところに、対抗上10大電力会社のひとつが契約プランの新たな選択と長期割引契約で100万円削減できる提案をもち込み、その比較に困っていました。一方は昨年と同じ電気の使い方をした場合、契約電力の単価を大幅に下げた場合の見積り、一方は時間帯や曜日で電気使用量単価を変えた(余っている時間は安く)場合のそれで、はなからプロであってもできない比較資料作りに悩み、私のところに駆け込んできたのでした。

結論から言うと、さらに新電力が契約電力単価を倍近く引き下げてくれたので、新電力への切り替えを決定しました。ただし私は、だからこそ今年の夏も今までの“省エネ”の手綱を緩めることなく、契約電力を引き下げてこその電気代の大幅削減の実現(今回の新電力への切り替え)ですと強く伝えました。

鹿児島のある新電力は、契約先に対して省エネアドバイザーを派遣することで差別化を図っています。正しい売り方のひとつのような気がします。これから生き残る新電力のひとつの条件は、自社の一時的、一方的な収益の最大化ではなく、徹底して顧客側の効率的なエネルギーマネジメントにこだわり、収益を最大化させ、そのなかから報酬を得ることを考え、実践する会社だと思います。

「新電力ビジネス」全体の収益構造を正しく知る

きちんとしたものを安く買いたいと思った時に私が基本にしていることがあります。買いたいものを作っている(サービスとして提供している)業界の様々なプレーヤー(メーカー、商社…)がどこでどれくらいの収益を上げているのかの徹底分析です。

今回、上記のパチンコホールのお客様からすごい話を聞きました。電気のブローカーがトップを訪ねてきて、最も安い電力会社を選んでくる条件に、年間電気代の3~6%の手数料支払いを求めて帰って行ったそうです。不動産の売買でもないのに。

上記はひどい例ですが、こんなケースもあります。これまで顧客は大手新電力の代理店(「ホワイトラベル契約」の活用)との間で、電力の供給契約を結んでいましたが、この「ホワイトラベル」なる電気の販売に関する契約形態がなくなります。代理店は、そのままの契約で新たに安い供給元を探せば利益は増します。よって、これまでの条件での契約継続を図ろうとします。

一方、これまで代理店を通じて顧客に電気を供給していた新電力は、代理店が顧客ごと他に移る、もしくは、これまでの代理店自らが販売元になるのですから事業継続の面からも大変な話です。これまで代理店に支払っていた手数料(マージン)分があるので、これを原資に顧客と直接取引をしたいと思います。しかし契約上、顧客側がこうした制度の変更に気づき、顧客側から話がない限り、直接のアプローチはできないのです。

顧客自身が、この業界において事業を行っている各社のこうした販売形態や収益構造をきちんと理解していたらどうでしょう?私なら、1年の契約期間が切れる前に少なくとも両社を呼んで、徹底的にサービスの中身(先ほどの鹿児島の新電力のような)と価格競争をしてもらいます。

今回の大学院での学びから得た情報に基づく【特別号】が、新電力販売ビジネスにおける収益構造理解の一助となれば幸いです。“敵を知り、己を知れば百戦危うからず!”現代社会は知らないと危うい、情報格差社会です。

事業構想大学院大学 ガス・電力小売・地域エネルギー事業構想
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地域経済と環境に貢献する地域エネルギー事業を構想する。2016年4月の電力小売全面自由化、固定価格買取制度(FIT)を活用した発電事業、地域資源であるバイオマス、風力、水力、太陽光、地熱などを用いた永続的な再生可能エネルギー事業を模索する。自社の経営資源、地域資源を活用すべく捉え直し、理想の事業を実現するための実践的研究会。全国より45社の企業幹部が参画中。

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