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地域新電力の可能性を広げる自治体間連携~シュタットベルケからの示唆~

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先週と先々週の回では、自治体が関与する地域新電力について、全国23の地域新電力一覧をもとに「自治体出資」「需給管理」「自治体所有電源の活用」「電力供給先」を軸にして整理・考察を行いました。また、多くの地域新電力が地域エネルギーや街づくりなどのマスタープランの検討が発端となっていることなどをご紹介しました(過去の記事はこちら。タイプ別地域新電力考察〜4つの軸+α〜自治体が所有する電源などを活用する地域新電力のとりくみ)。

最終回の今回は、今後の地域新電力の可能性を思い描くとともに、自治体間連携が地域新電力の可能性を広げるという少しニッチな話題で終わりたいと思います。

また、タイミングよく先週2月6日~8日にかけて、みやま市と東京で日独自治体エネルギー会議が開かれ、ドイツのシュタットベルケ(都市公社)や自治体の関係者から様々な情報提供がありましたので、そちらを原稿の最後に追記しました。

地域新電力はシュタットベルケになれるのか

さて、地域新電力が語られる際、ドイツのシュタットベルケ(注)がよく取り上げられます。黎明期の日本の地域新電力を長い歴史を有するドイツのシュタットベルケと比較するのは酷な気がしますが、日本の地域新電力とシュタットベルケの主な差として、(1)専門人材の厚み、(2)再エネへの積極的な取組、(3)エネルギーの多角的事業展開が挙げられます。

注:シュタットベルケ:19世紀後半以降、水道、交通、ガス供給、電力事業(発電・配電・小売)など、ドイツ国内のインフラ整備・運営を行うために発達してきた、自治体出資による事業者。シュタットベルケの数は、ドイツ全体で約1,400に上り、電力事業を手がけるシュタットベルケは900を超える。

まず、1つめの人材についてですが、シュタットベルケは基本的に行政からの出向を受け入れることなく自前で専門人材を抱えています。この専門人材が、大手電力会社に負けることなく約5割のシェアを握るシュタットベルケの強さの源泉となっています。一方、現在の日本の地域新電力は、需給管理などを自前で行わず民間のバランシンググループに入っているものが多く、地域新電力内での電気事業に係るスペシャリスト育成の点では難しい面があると言えます。

こちらの回で、日本の地域新電力を需給管理を軸に整理しています。

次に、2つ目の再エネへの取組については、シュタットベルケは総じて環境への意識が強く、再エネを主電源とする「エコ電力」の販売や、事業収益を通じた再エネへの再投資など、地域の再エネ拡大に重要な役割を果たしています。今後、日本の地域新電力も電気供給の事業基盤が安定した暁には、同様の取組による再エネ拡大への貢献が期待されます。

3つめ多角的事業展開については、シュタットベルケは電力のみならず、水道・ガス・エスコ事業など業務範囲をエネルギー全般としているケースが多く、電気供給と併せた省エネ診断や地域熱供給、そして地域に根差したサービスを総合的に実施しています。日本の地域新電力では、浜松新電力が中小事業者向けに省エネ診断を実施している例がありますが、(事業開始間もないため当然といえば当然ですが)多くが電気供給のみに留まっています。

これら専門人材をどこまで抱えるかや、事業の多角化をどこまで進めるかについては、設立目的(「電気料金の低減」や「雇用創出」など)によっても判断が異なってきますし、(行政が出資をしている場合)行政がどこまで関わるかなどの点で様々な考えがあると思いますので、全ての地域新電力がスタットベルケのような事業形態を目指す必要があるとは思いません。

一方、シュタットベルケの多くが電気供給を地域熱供給や再エネへの再投資などと相乗効果をもって実施していることを踏まえると、一定規模の地域新電力では、地域熱供給や省エネ診断・省エネ機器販売、電気自動車のカーシェアリングなどエネルギーの多角的事業展開や再エネへの積極的取組により、エネルギー全体に対し厚みをもって地域をスマート化・低炭素化していけるのではないかと、どうしても期待してしまいます。

※ドイツのシュタットベルケの地域に密着したサービス・取組は以前こちらで紹介しています。100%再エネ電力の販売や収益の再エネへの再投資、ソーラー屋根台帳(ソーラーマッピング)、屋根借り、地元密着アプリなどなどシュタットベルケの取組を紹介していますのでご参考にしてください。

ドイツのカールスルーエ市のシュタットベルケ(省エネ機器等の啓発展示があり、エネルギーの相談もできる)※筆者撮影

ドイツのカールスルーエ市のシュタットベルケ(省エネ機器等の啓発展示があり、エネルギーの相談もできる)※筆者撮影

日本では、先にご紹介したようにさまざまな形で地域新電力が設立されていますが、地域の行政ニーズを踏まえ多角的な事業展開しているという点でシュタットベルケに一番近く、現在の地域新電力のフロントランナーと言えるのは、やはり、みやまスマートエネルギー(株)ではないでしょうか。

みやまスマートエネルギーは、電気供給と併せ、家電の使用状況が分かるHEMSを活用した高齢者の見守りや、水道料金とのセット割、街の商店街活性化のためのワンストップ通販事業など地域の課題解決のための取組を多角的に行っています。電力事業を「目的」ではなく、地域振興や雇用創出の「方法」として捉え、多様な行政サービスを付加し展開していることが特徴です。

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この記事の著者

稲垣 憲治
稲垣 憲治
(公財)東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター (東京都 環境局 地球環境エネルギー部)
平成17年3月東京大学大学院修了(エネルギー工学)。同4月文部科学省入省、原子力計画課係長などを経て22年3月退職。同4月東京都庁入庁。ソーラー屋根台帳や屋根貸しマッチング事業、シティチャージ設置事業など自治体の新しい太陽光発電普及策の企画に従事。26年4月から(公財)東京都環境公社(都から派遣)。5か国10都市で先進都市の再生可能エネルギー普及策等を現地調査。
北橋 みどり氏
北橋 みどり
(公財)東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター 所属
NPO法人エコ・リーグ 代表理事、(一社)環境パートナーシップ会議 国際プロジェクトコーディネーター等などを務め、気候変動や国際交渉等に関連した数々のプロジェクト創出、国際ネットワーク構築等に携わった。環境省事業の委員や、外務省のNGO専門調査員等も務めた。2016年より現職。再生可能エネルギーの普及、新電力の立ち上げ・運営などに従事。
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