米シカゴ大のリチャード・セイラー教授のノーベル経済学賞の受賞(2017年)によって、「ナッジ」をはじめとした「行動科学」が、世界中で注目を集めることとなりました。そういった影響もあり、日本では、特に気候変動・省エネ分野において行動科学を活用する研究が積極的に行われています。そこで本連載では、気候変動・省エネ分野の研究発表が積極的に行われているBECC JAPAN(日本版気候変動・省エネルギー行動会議)における先進的な研究を題材の中心として、現場の第一線で活躍する多数の研究者のインタビューも交え、本分野における行動科学(ナッジ)活用の最新動向と、行動科学を活用することによる社会的インパクトを考察していきます。
※1 Behavior,Energy and Climate Change Conference Japan
BECC JAPAN 2020は2020年8月25日に開催予定
ナッジの登場によって変化した世界の気候変動・省エネ政策のアプローチ
まず、本連載における「ナッジ」を定義したいと思います。
ナッジの提唱者であるセイラー教授は、ナッジを「選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素」と定義しています(※2)。
※2 リチャード・セイラー, キャス・サンスティーン, 実践行動経済学, 2009.7
本連載ではこの定義にしたがって、前半の「選択を禁じることも、~人々の行動を予測可能な形で変える」を「人の思考のクセを利用する」と解釈し、後半の「選択アーキテクチャーのあらゆる要素」を「選択肢の提示手法」と解釈したいと思います。以上より本連載では、ナッジを「人の思考のクセを利用した選択肢の提示手法」と定義します。
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