環境用語集 スマートグリッド
目次
スマートグリッドとは
定義とそのメリット
スマートグリッド(次世代送電網)とは、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化できる送電網。専用の機器やソフトウェアが、送電網の一部に組み込まれている。ただその定義は曖昧で、いわゆる「スマート=賢い」をどの程度と考えるかは明確ではない。
そもそも、オバマ政権が、米国のグリーン・ニューディール政策の柱として打ち出したことから、一躍注目を浴びることとなった、スマートグリッド。
従来の送電線は、大規模な発電所から一方的に電力を送り出す方式だが、需要のピーク時を基準とした容量設定ではムダが多く、送電網自体が自然災害などに弱く、復旧に手間取るケースもあった。そのため、送電の拠点を分散し、需要家と供給側との双方から電力のやりとりができる、「賢い」送電網が望まれている。
スマートグリッド化を進めることによるメリットとしては、下記の4点が挙げられる。
- ピークシフト(昼間電力消費の一部を夜間電力に移行させる方法)による電力設備の有効活用と需要家の省エネ
- 再生可能エネルギーの導入
- エコカーのインフラ整備
- 停電対策
一方で、スマートグリッドには欠点もあるとの指摘がある。
例えばセキュリティ上の問題。スマートグリッドのインフラには、高度な通信システムや技術が結集することになる。そこに対する不正操作やウイルス感染などの対策はまだ不十分と言われており、今後セキュリティの脆弱性の克服が必要になるだろう。
【関連】
→ スマートグリッドのトップページ
→ スマートハウス
→ デマンドレスポンス
→ HEMS
→ BEMS
米国版 スマートグリッド - 停電対策が急務
米国では、停電問題が深刻だ。電気事業連合会が公表した2006年度の実績では、日本の年間事故停電時間が、1軒あたり19分であるのに対し、米国では97分。米国では、当事者からの電話連絡がない限り停電箇所が分からず、送配電インフラの整備・性能の向上は急務であるといえる。
オバマ政権はスマートグリッドに110億ドルを投資すると明言。大規模な送電網の整備事業で、安定性・信頼性の向上を図るだけでなく、効率的な配送電による省エネや、再生可能エネルギー導入の促進など、高機能化を行うことで関連産業を成長させ、競争力をつける目論見もありそうだ。
現在、コロラド州ボルダーでは、「スマートグリッド・シティ」と称し、スマートグリッドに関する様々な実証実験が行われている。中心となるのは、電力会社であるエクセル・エナジー社。各家庭にスマートメーターを設置し、電力使用量の制御や太陽光発電の導入などを行う予定だ。
その他、グーグルやGEもスマートグリッド事業への参入を決めている。
【関連コラム】
「電力大改革時代」に必要なスマートグリッドの「プランB」
スイスの例(2) スイスの例(1) デンマークの例(3) デンマークの例(2) デンマークの例(1) スペインの例(3) スペインの例(2) スペインの例(1) |
スウェーデンの例(2) スウェーデンの例(1) オランダの例(2) オランダの例(1) イギリスの例 ドイツの例(2) ドイツの例(1) 欧州の例(1) |
日本版 スマートグリッド
-再生可能エネルギー導入目標達成に向けて、整備が進むか
日本の送配電線網は、すでに「賢い」と言われており、その安定供給に関するシステムは他の先進国に比べても群を抜いている。それは、アメリカや欧州の年間事故停電時間が50~100分程度であることと、日本のそれが19分であることを比較すれば明らかだ。 日本の送電線網は通信システムで管理されており、停電や事故の情報を迅速に検知することができる。そういった意味では、停電対策のためスマートグリッド化は、日本には不要であると言えよう。
一方で、太陽光発電や風力発電をはじめとする、再生可能エネルギーの導入目標達成に、スマートグリッドを構築する必要性は高い。
麻生政権時には、政府が太陽光発電の導入量を2020年に05年比20倍に拡大すると目標設定。風力発電では、日本風力開発が、青森県で安定供給への実証実験を開始するなど、再生可能エネルギーの積極利用への動きは活発だ。
これらの新エネルギー導入の肝となるのが、スマートグリッド。太陽光や風力などは、その発電量が天候や気候に左右され、非常に不安定だ。更に、電力需要が少ない時に供給量が増加してしまうと、配電線に大量の電力が送られ、負荷をかけることになってしまう。そのため、需要と供給のバランスを調整するなどの系統安定化策が不可欠。
具体的には、大型の蓄電池を設置することで電力をプールする方法や、電気自動車(EV)の蓄電池としての代替利用、コージェネやガスエンジンといった機器の電力源としての利用など、他の設備に余剰分の電力を移す方法がある。
停電対策よりも再生可能エネルギーの導入のために推進される日本のスマートグリッドだが、その仕組みづくりには、関連する多くの分野からの協力体制が必要になる。
経済産業省のスマートグリッドの取り組み
地域エネルギーマネジメントシステムの実証実験
住宅向けの小型蓄電池の開発支援と、実際に蓄電池を配置した際に電力の需給調整ができるかどうかを実験する取り組み。
太陽光発電や風力発電など、新エネルギーによる発電設備は増えているが、天候や時間帯に発電量が左右され、安定的な電力供給が難しい。そのため、蓄電池が不可欠だとされている。現在、大規模風力発電設備にはナトリウム硫黄電池(NAS電池)が使われているが、装置が大がかりで、細かな充放電には向かないため、住宅用として新たな蓄電池の開発が求められている。
今回、小型蓄電池の開発を支援するとともに、住宅やビル、それらを束ねた配電設備などに実際に蓄電池を配置して、うまく機能するか実験を行い、蓄電池開発やスマートグリッドに有用なデータの収集を行う。
そのほか、トータルでのエネルギー使用量ゼロを目指す「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)」と天然ガスコジェネシステムをあわせたエネルギー調整の実験も行う予定。2010年度の予算案では50億円弱が計上されており、うち蓄電池関連は43億円程度。
スマートグリッド推進協議会(仮称)
経産省が主体となり、民間企業によるスマートグリッドの推進母体として立ち上げが予定されている協議会。立ち上げ時期は2010年2~3月の見込み。日本企業が一体となり、海外へのシステムの展開を目指す。更に、5月頃にはスマートグリッドに関するロードマップを策定する予定。
その他のスマートグリッドの関連キーワードと参入企業
日米共同研究プロジェクト
2010年度より、米国ニューメキシコ州のロスアラモス地区とアルバカーキ地区の2カ所でスマートグリッドの日米共同研究プロジェクトが開始される。具体的には、太陽光や風力など、再生可能エネルギーを導入した際の配送電線網への影響や、スマートメーターを活用した新サービスの実証実験など。日米は同プロジェクトを通し、スマートグリッド関連技術の向上と国際標準化を進める考えだ。
参入企業:現在、参加企業を公募にて募集中
スマートメーター
需要家と電力会社との間での双方向通信を可能にし、エネルギーマネジメントのための機能を備えた「次世代電力量計(電気メーター)」のこと。
※参考:スマートメーターとは
超電導ケーブル
冷却することで電気抵抗がゼロになる性質をもつ物質を利用したケーブル。ケーブルを冷却して送電を行うことで、送電の際の電力ロスがなくなり、省エネ・CO2削減に貢献する、とされている。
住友電気工業は、東京電力と共同でNEDOの「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」に参画しており、平成22年度より、日本で初めて高温超電導ケーブルを電力系統に連系する実証実験を行う。
参入企業:住友電気工業、古河電気工業、昭和電線など
デマンド・コントロール(デマンド管理)
最大需要電力(デマンドの最大値)を予測するシステム。電気料金のうち、基本料金は契約電力(契約上使用できる最大電力)によって決定される。契約電力は、30分ごとに計測される需要電力量の平均値のうち、最大値(最大デマンド)が適用される。30分の中である一定の需要電力値を超えないように、需要電力を計測し、警報などで需要家に知らせる仕組みが「デマンド・コントロール」。これにより、基本料金を抑えることができる。
参入企業:三菱電機、富士電機、日本風力開発、大崎電気工業など
スマートオアシス
スマートオアシスは、電気自動車(EV)充電スタンドを利用したサービス。充電スタンドの位置情報や空き情報を、携帯や無線LANを使い、リアルタイムで知ることができる。また、各充電スタンドでの充電状況や課金状況、障害発生状況を監視することができる。
参入企業:日本ユニシスなど
マイクログリッド
マイクログリッドは、複数の小規模な発電施設で発電した電力を、その地域内で利用する仕組み。分散型電源や分散型電力網とも呼ばれる。エネルギー供給源としては、新エネルギー(太陽光、風力、バイオマス、燃料電池)が利用され、蓄電池も設置される。これらの発電施設を地域内に作り、更にネットワーク化して連結。新エネルギーは一般的に出力が安定しないという欠点があるが、複数の発電所を用い、電力需要にあわせて最適制御を行うことで、需給バランスを調整し、安定的に電力を供給することができる。更に、建設費用が安価で、送電によるエネルギーロスが少ないというメリットがある。その反面、実用化にはコスト面の問題が残る。特に蓄電池はまだコストが高く、更なる高性能化・長寿命化も求められている。
2003~2007年度には、愛知県常滑市・青森県八戸市・京都府京丹後市でマイクログリッドの実証実験が行われた。常滑市の場合は太陽光発電と燃料電池、二次電池によって構成されたプラントを利用しており、2日間の独立運転に成功している。現在は、鹿児島県や沖縄県の離島で、マイクログリッドの実証実験が行われ、その系統安定化対策についての検証が進んでいる。
スマートシティ
スマートシティとは、ITを活用し電力供給の最適化するスマートグリッド技術を導入し、再生可能エネルギーを用いた分散型発電システムや電気自動車の充電システム、高効率な空調装置を用いたビル・住宅などの都市システムが結合され、CO2排出量が少なく、環境負荷の低い社会インフラが整備された次世代都市のことをいう。