本物に触れる学びが教育の原点 学園ぐるみで進める、持続可能な開発のための教育(ESD)

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1912年の創立から110年以上の歴史を持つ成蹊学園。小学校から大学院までを持つ総合学園として、地域に根差し、特色ある教育を提供してきた。2018年にサステナビリティ教育研究センターを開設しESDを推進。大学ではSDGs副専攻も新設した。同学園のSDGsや環境への取り組みは…。

成蹊大学 理工学部 理工学科 サステナビリティ教育研究センター 教授 藤原均氏

◆環境教育、SDGsに積極的にコミット

 創立者である中村春二氏が、学園の前身である『成蹊実務学校』を開校して以来、90余年にわたる気象観測をはじめ、実験や観察、校外学習を通じた本物に触れる体験学習を教育の原点としてきた成蹊学園。

 気象観測のほかにも“種を蒔き、育て、収穫し、調理し、食べる”小学校の栽培活動や、中学校の自然観察教育プログラムなど、創立当初から、持続可能な社会の担い手を育む教育『ESD:Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)』を実践してきた。2019年には、パリのユネスコ本部より、ユネスコスクールとしても認定されている。

 同学園では2018年、『サステナビリティ教育研究センター』を開設。所長を務める成蹊大学・理工学部の藤原均教授は「総合学園として、学園内の連携を推進するハブの役割を果たすほか、他の学校や研究機関、博物館、企業、市民などを結ぶ、ESD活動の拠点となることを目指し、様々な活動を行っています」と話す。

 国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)の実現へ向け、教育機関として積極的にコミットする成蹊学園。特に環境保全活動には力を入れており、省エネルギー、資源の再利用、廃棄物の減量などに取り組む。

 “個性尊重の人格教育”という教育理念のもと、これまで各学校で行われてきた様々な環境教育・研究を学園全体の取り組みとしてより充実させ、未来の世界を担う児童・生徒・学生の環境保全に対する意識の向上と課題解決力の養成につとめている。

 また、成蹊大学においては、副専攻制度のもと、新たに『SDGs副専攻』を開設した。

 「SDGsは全ての学部の教育・研究に密接にかかわる幅広い枠組みで、これらを所属学部の学修とセットで包括的に学ぶことは、大きな意義があります」

 同副専攻では、SDGsにおける〈環境・地域〉〈国際理解〉〈人権・共生〉の3つの側面に関する科目やそれらの実践に関する科目をバランス良く学ぶことで、持続可能な社会の実現に貢献するための素養を身に着けることを目指す。

“落ち葉は資源”

持続可能なけやき並木を

 成蹊学園内の学校と学校を結び、さまざまな研究機関、市民などを結ぶハブとしての役割を担う『サステナビリティ教育研究センター』。

 成蹊の各学校のユネスコスクールの活動を統括するとともに、各種イベントの企画やコンテンツの発信、学園横断的なプロジェクトの旗振りなども行う。

 『けやき循環プロジェクト』もそうした活動のひとつ。

 成蹊学園には、約600mにおよぶけやき並木がある。四季折々に美しい景観を見せ、武蔵野市の市指定文化財に指定されているだけでなく、在校生・卒業生にとっての母校のシンボルとなっている。

 一方で、高さ25m前後、幹回り2m以上にまで成長した樹木の剪定や管理は大変で、落ち葉が近隣の住人の迷惑となる一面も。

 「学園の大切なシンボルであるけやきと長く付き合っていくために、“落ち葉は資源”と捉え、それを活用した様々な活動に取り組みながらけやきを維持していく。それが『けやき循環プロジェクト』です」

 プロジェクトは毎年4月からはじまり、小学生が中心となり、中・高・大生がサポートするカタチで、プランターの花植え、馬術部の馬の糞を活用した堆肥づくり、落ち葉集めと焼き芋大会、枝を活用した工作のワークショップなど、けやき並木の“落ち葉”を活用し循環させる仕組みづくりに取り組んでいる。

SDGs達成へ〈宇宙〉がひとつのキーワード

 『サステナビリティ教育研究センター』ではまた、宇宙や地球を知るシンポジウムを毎年開催している。センター長の藤原教授はオーロラの研究を専門としているが、直近では宇宙科学を楽しむ『オーロラと宇宙シンポジウム』も開催した。

「SDGsを期限内に達成しようと思えば、今の方法論だけでは行き詰まります。その時の1つのキーワードとして〈宇宙〉があります。CO2の発生具合や農地の虫害など、地上のデータではなく宇宙から観察したデータを使うことで、地球環境の調査をより効率的に行うことができるのです」

宇宙データの活用については国も力を入れており、JAXAと共に宇宙ビジネスに取り組む宇宙ベンチャーへの政府からの支援は加速している。

SDGs達成へ向け、学園では子どもたちや大学生に対し、どのような力を育成していくべきか。藤原教授は「何か画一的に“これだけやれば良い”という答えはない」と話す。子どもや学生は千差万別。何もかもそつなくこなす子もいれば、何かひとつに長けている子もいる。

「ひとつ共通なのは、1人で出来ることは限られており、他人と協力することが必要だということです。子どもや学生には、チームのなかで、自分の存在感を発揮できる力を身に着けてもらいたい…。自分は何がしたくて、何ができるのか、そして何が足りないのか。その上で自分の社会における役割を理解し、大学や大学院までに学んできたこと、身に着けてきた能力に応じて、それを発揮できるような道に進んでもらえばいいのではないかなと思っています」

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