web3起業家 渡辺創太氏「日本企業にチャンス」 国内の共創を強化へ

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アスターネットワークのファウンダー兼、ステイクテクノロジーズCEOの渡辺創太氏 (出所:渡辺創太氏/写真:堅田ひとみ)
アスターネットワークのファウンダー兼、ステイクテクノロジーズCEOの渡辺創太氏 (出所:渡辺創太氏/写真:堅田ひとみ)
アスターネットワークのファウンダー兼、ステイクテクノロジーズCEOの渡辺創太氏 (出所:渡辺創太氏/写真:堅田ひとみ)
アスターネットワークのファウンダー兼、ステイクテクノロジーズCEOの渡辺創太氏 (出所:渡辺創太氏/写真:堅田ひとみ)

日本発のパブリックブロックチェーン(分散型台帳)、「アスターネットワーク(Astar Network)」の独自トークン(暗号資産)「ASTR」が、9月26日、日本の暗号資産取引所であるビットバンク(東京都品川区)に上場し、日本国内でも取引が可能になった。これまで日本企業がASTRを入手するためには海外取引所等を介する必要があったが、今回の上場により日本円で入手できるようになり、購入・売却のハードルが低くなる。今後はより多くの企業がASTRのエコシステムに参入することが予想される。

上場を記念し、同社は9月26日の日本経済新聞朝刊に全面広告を掲載した。この広告には、同社の取り組みに賛同する日本国内のweb3スタートアップや大手企業329社のロゴが掲載され、web3で日本を再びナンバーワンにするという力強いメッセージを打ち出した。広告の仕掛け人となったアスターネットワークのファウンダーで、ステイクテクノロジーズ(シンガポール・Stake Technologies)CEOの渡辺創太氏に、その狙いや今後の展望などについて話を聞いた。(以下、渡辺氏談)

日本発のパブリックブロックチェーンを運営 DAO化も視野に

アスターネットワークは誰でも参加が可能なパブリックブロックチェーンで、ステイクテクノロジーズが開発を行った。特徴としては複数のブロックチェーンをつなげる機能を有すること。

パブリックブロックチェーンの解決すべき問題の一つとして、異なるブロックチェーン同士の相互運用性がなく、データのやり取りがスムーズにいかないという点がある。それを解決するために、複数のブロックチェーンを接続する機能と、スマートコントラクト(ブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み)のプラットフォームも開発した。

最終目的はDAO(分散型自立組織)化する、つまり特定の所有者や管理者が存在せずとも事業やプロジェクトを推進できる組織になること。売上を0にして、自分達の持っている経営資源も0にすること(=会社清算)を目標にしている。会社が存在しない状態でプロダクトが大きな価値を持ち動き続けることは前例がないが、パブリックブロックチェーンを用いれば実行可能である。誰も成し遂げていないからこそチャレンジしたい。

web3企業の壁は上場と課税

日本国内でweb3企業が活動していくのには税制や法律など、厳しい状況がある。特に壁となっているのが、暗号資産の上場の審査がホワイトリスト方式で時間がかかることと、法人が所有するトークンにかかる期末課税について。

日本の暗号資産取引所に上場するためには日本暗号資産取引業協会と金融庁の審査が必要になり、時間と手間がかかる。また、一定の審査をクリアした暗号資産がホワイトリストに掲載され、そこに追加されないと上場ができないという問題があった。そこに関しては、ブラックリスト方式へ転換するよう声を上げており、NFT政策検討プロジェクトチームが8月に「NFTホワイトペーパー 〜Web3.0 時代を見据えたわが国のNFT戦略」に対して行った追加提言の中には「政策スタンスを事前記載型(ホワイトリスト方式)から事後監視型(ブラックリスト方式)へ転換する」という内容が盛り込まれた。

自社発行トークンの期末課税に関しては、現金収入が発生していなくても法人税法上の期末時価評価の対象となるため、含み益に対して法人税が課され、場合によってはトークンを売却・現金化して納税しなくてはならないような状況がある。これはスタートアップ企業が海外に流出する大きな要因となっていたが、それは経済産業省や金融庁などを中心に、改善の方向で議論が進んでいると認識している。

web3企業支援側の壁は未実現利益

次のステップとしては、他社発行トークンの未実現利益に対しても期末課税がかかる状況があり、そこに課題が2つあると考えている。

1つ目は投資家が毎期ごとにトークンを売り、売り圧力が強まるため、web3起業家が資金調達をする時に、日本の投資家からのトークン出資を避けがちになるということ。

2つ目は海外企業の日本展開も避けられる可能性があるということ。海外プロジェクトが日本進出の拠点として会社を設立する際には、財団を設立しトークンを管理し、企業が開発を行うというスキームが多い。その際企業は財団と別法人格となるが、トークンの助成金に対して法人税とは別に期末課税が発生するからである。

個人に対する税金の高さや利益確定の定義などにも課題はあるが、まず上記の2つを解決することが重要だ。つまり、他社発行トークンの未実現利益への期末課税を撤廃する必要があると思う。

web3分野のビジネス参入に求められること

現在、暗号資産やNFT(非代替性トークン)などのトークンを基盤とし、ブロックチェーン上でユーザー自らデータの管理・活用を行い新しい価値を創出する動きが日本を含む世界中で急速に広がっている。

これからより多くの資金がweb3 空間に流れ込むことを考えると、web3 の入口となる場所、つまり、暗号資産取引所やウォレット(資産を保管しておくデジタル財布)などには非常に大きな可能性があるといえる。

また、大手企業は豊富な資本を利用し、web3とリアルの接点を狙っていくといいだろう。一例として、当社は博報堂(東京都港区)と協業し、アスターネットワークを活用したカルビー(東京都千代田区)のNFTゲーム施策を実装した。バーチャル空間上でじゃがいもを収穫したユーザーに同社のじゃがいもの商品が届くキャンペーンを実施するなど、web3とリアルを繋ぐマーケティング施策に取り組んでいる。10月31日にはNTTドコモ(東京都千代田区)と協業し、DAOの考え方を活用した社会課題解決プロジェクトも発表した。

スタートアップの場合は、最初から世界を相手に勝負するほうがいい。現在web3において、税制や上場の困難さなどにより、日本は世界から見て魅力的なマーケットには映っていない。分散型ネットワークで世界をつなぐweb3 では、海外の事業モデルを日本に輸入するタイムマシン経営のような発想は通用せず、最初から世界を相手に戦う必要がある。web3の先進国とはいえない日本で、環境が整備されるのを待ってから腰を上げるのでは勝算が低い。自分たちが将来、日本に逆輸入するくらいのつもりで、先んじて世界で成果を収めるという意識が必要だ。

「web3で日本を再びナンバーワンに」大手企業やスタートアップ329社が賛同

9月26日に日経新聞に掲載された広告(左)と、渡辺氏が自身のTwitterアカウントにアップした画像(右)(出所:渡辺創太氏)
9月26日に日経新聞に掲載された広告(左)と、渡辺氏が自身のTwitterアカウントにアップした画像(右)(出所:渡辺創太氏)

9月26日の日経新聞朝刊に「Japan As No.1 Again」をテーマにした全面広告を掲載した。「過去は振り返るものではなく乗り超えるもの。未来は嘆くものではなく築くもの。前進しよう。新しい時代を創るために」という部分が特に気に入っている。

本質的にweb3には国籍は関係ないが、日本のweb3ビジネスを盛り上げていきたいという想いから「Japan」と掲げることにした。ステイクテクノロジーズは現在シンガポールを拠点にしているが、創設した場所は日本。日本にルーツを持つ企業として、日本のブロックチェーンに貢献していきたいと思っている。

web3においては2022 年の中頃からフェーズが完全に変わったことを起業家として認識している。web3という概念が日本の社会に浸透していく中で、政府や大手企業の力を借りながら推進していくのがベストと考え、日本国内のweb3スタートアップや博報堂、カルビー、三菱UFJフィナンシャル・グループ(東京都千代田区)といった大手企業など329 社にご協力いただいた。

web3エコシステムの広告となるよう意識し、あえて当社の名前を前面に出すことはしなかった。web2でデジタル敗戦を喫した日本が次のチャンスで世界に羽ばたくため、様々なステークホルダーと共創していきたいと思う。

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