web3×森林活用 日本一チャレンジする町・横瀬町の取り組みとは

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「WOOD DREAM DECK」によってweb3が森林資源の循環利用に貢献する仕組み(出所:TIS)
「WOOD DREAM DECK」によってweb3が森林資源の循環利用に貢献する仕組み(出所:TIS)

2023年3月21日、埼玉県横瀬町でスタートした「WOOD DREAM DECK(ウッドドリームデッキ)」。web3などのIT技術を活用し、地域の森林資源の健全な活用と循環を目指す。同プロジェクトの内容や実施背景、気候テックなどの最新技術に対する自治体としての向き合い方や期待など、町長の富田能成氏に聞く。

日本一チャレンジする町・横瀬町

国際森林デーの3月21日、web3技術であるトークン(暗号資産)やNFT(非代替性トークン)を活用し、森林資源の循環利用を活性化するプロジェクト「WOOD DREAM DECK」が、横瀬町で始まった。

横瀬町は埼玉県の西部、秩父地方の南東部にある町で人口は約7800人。人口減少が続く中、町をオープンにし、外から人・モノ・カネ・情報を呼び込み、町の資源と掛け合わせた化学反応を起こしていく仕組みとして、2016年10月から官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を展開する。6年半の運用で、219件の提案を受け、128のプロジェクトを採択している(2023年5月時点)。

「町の課題に対する提案を募るのではなく、『やってみたいこと』をベースにしたチャレンジを受けるカタチにしているのが『よこらぼ』の特徴です。『日本一チャレンジする町』、そして『日本一チャレンジを応援する町』として間口を広げることで、多彩な提案をいただいています」と富田町長。課題を設定していない分、自然とその時の経済情勢や社会情勢が反映される。初期の2016年頃ではシェアリングエコノミーに関するプロジェクトが多く、森林・林業の話はここ2~3年で提案が増えてきたという。

「よこらぼ」の仕組み(出所:横瀬町)
「よこらぼ」の仕組み(出所:横瀬町)

プロジェクトを提案するのは、スタートアップが多いものの、上場企業、外資系企業、研究機関、大学、個人、NPO法人まで多種多様。これまで採択した128のプロジェクトのうち、町の予算を使ったのはわずか5件だという。基本的には自走していただき、自治体はそのサポートをします。お金を介さないwin-winを官と民で作ることを主としています」

IT技術で経済循環と森林保全を両立

「WOOD DREAM DECK」は、「よこらぼ」で採択したプロジェクトの1つ。提案したのは、金融、脱炭素、健康問題など様々な社会課題の解決へ向けITサービスを提供するTISインテックグループのTISだ。

国土の7割を森林が占める日本において、森林をどうするかというのは、自治体における共通の課題と言っていい。町の8割を森林に囲まれる横瀬町においても、その利活用や循環は大きな課題となっている。

「林業の話は難易度が高い。森林をどう活かすかにはそれなりのスケールが必要で、資金的にも、人材的にも小さい町単独では困難です。さらに、林業は生産から加工、流通、消費のリンクが切れてしまっていることがあるのが現状です。今回のプロジェクトは、小さな町の持っている資源では解決不可能な課題に対し、最新のテクノロジーを活用して違う切り口で突破していく糸口を見つけるべく、採択しました」

日本の森林の面積は、ここ50年変わっておらず、体積のみがどんどん増えているという。体積が増えると森が密集し、木材の高齢化が進んで、大雨による土砂崩れ、生物多様性の崩壊、CO2吸収能力の低下などを招く。この問題を解決するには、地域の森林資源を伐って使いつつ植え替えていく、循環利用を促進することが大切だ。

「WOOD DREAM DECK」では、地域の森林資源を活用し、経済を回しながら、森林環境を改善。経済循環と環境保全を両立するエコシステムを構築することが狙いだ。同プロジェクトでは、地域の木材を使った製品や体験にIT技術で付加価値を付け、地域の木の需要を増やし、利益を植樹や育林に還元する仕組みづくりを目指す。

仕組みは3つの観点で形成される。まずは、web3技術を活用し、地域の山主、製材業者、家具職人など、森林に関わる地域内外の個人やプロジェクトを繋げるファンベースのコミュニティを提供。木を使ってしたいことのアイデアを出し合い、職人や林業関係者、サポートや金銭的支援をしてくれる地域内外の人をつなげる。

支援のイメージ(出所:TIS)
支援のイメージ(出所:TIS)

次に、このファンベースコミュニティを広げるため、森林関連のトークンを発行・流通させ、様々なインセンティブを与えて、プロジェクト参加へのきっかけを生み出し、コミュニティを活性化する。

トークンを介して領域を跨いだ森林プロジェクトの活性化(出所:TIS)
トークンを介して領域を跨いだ森林プロジェクトの活性化(出所:TIS)

さらに、地域の木材を使った製品や体験をNFT化することで付加価値をつけ、木の需要を生み出して末端価格を高める。例えば、NFTで木の情報やメッセージの記録や、木を使って完成した設備の利用・所有の権利やイベントへの参加資格を付与。これにより、追加で得た利益を植樹や再造林の費用に還元できる仕組みを構築していく。

NFTを活用して木を使うことへの付加価値を高める取り組み(出所:TIS)
NFTを活用して木を使うことへの付加価値を高める取り組み(出所:TIS)

プロジェクト第一弾として、地域の木材を使った合板でサウナを作る取り組みが始まっている。プロジェクトに興味のあるメンバーによるオンラインコミュニティから多くの希望者が集まり、建設作業を行った。下草刈りやサウナ作りに協力したメンバーには、サウナの試運転に入れる権利、完成後に無料で入れる権利などをトークンで提供する。今後さらに多くの人を巻き込んでいくことで、外部から人を呼び込みながら森林活用を進めていくことに期待が高まる。

また、同プロジェクトによる環境保全効果を明確にしていき、カーボンクレジットや生物多様性クレジットの生成によるビジネスモデルも検討していくという。最終的には、横瀬町のみならず、森林の課題を抱えている他自治体への展開も進め、森林資源の循環利用を推進する。

最新技術に入り口で蓋をしない

「WOOD DREAM DECK」のような、web3の技術を活用したプロジェクトは、「よこらぼ」ではもう1件採択している。クラウドファンディングサービスを展開する奇兵隊による、NFTアートを活用した「Open Town Yokoze」の取り組みで、地域独自のデジタルアート(NFT)を制作・販売し、その売上収益を使った自律的なまちづくりと、NFT購入者へのリワードの提供を循環させる仕組みを構築している。

web3の代表的な技術であるNFTやDAO(自律分散型組織)は、設備投資などが不要で、地域内外に幅広く関係人口を創出できるという点で、地域の活性化や環境への貢献とも相性が良いと言われている。「よこらぼ」でも今後採択件数が増えていくことが予測される。

そのような最新技術に対し、自治体としてどのように活用するかについて富田町長は、「新しい切り口で横瀬町の森林に付加価値を生み出せるかもしれないといった可能性には、大いに期待しています。自治体としては今後、最新技術に入口で蓋をしないことが大切だと考えています。web3は言ってみれば手段であり、目的ではありません。web3の活用で町の知名度を上げたいとかは考えていなくて、我々の創りたい未来に対してどう活用していくかという目線で、こうした最新技術に向き合っていく。学び、親しんでいくことが大事だと思っています」と語った。

富田 能成氏 横瀬町長
富田 能成氏 横瀬町長

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