早稲田大学教授・戸村肇氏が語る web3×決済システム

「利用者保護しつつ自由を確保していく」 web3普及と日本での規制の今後(後編)

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早稲田大学教授で経済学者の戸村肇氏に、web3が決済システムに与える影響、暗号資産やNFT(非代替性トークン)などのweb3技術が今後どのような道を進むのかを話してもらった。第2回では、web3の今後の普及について聞いた。(後編/前後編)

(前編はこちら

今後、web3が普及するには

――暗号資産についてハードルが高く感じる人を今後どのように巻き込んでいけばいいでしょうか。

web3に関する知識の多くない人が暗号資産を直接保有することは技術的にハードルが高く、中間事業者が必要です。解決策としては、GameFiがいい例ですが、暗号資産の概念を広めるよりも、まずは一般的な関心を集めるサービスを提供して、「実は暗号資産の技術が使われている」、「実はNFTの技術を使っている」、という順番で関心を広げていくと世間を巻き込みやすいのではないかと思っています。

また、暗号資産のサービスが決済だけだと利用者は付加価値をそれほど感じないですから、決済ではない暗号資産関連サービスが前面に出てくるといいと思います。また、今までの暗号資産への需要は主に投機的なもので、金利が上がるとつぶれていくと思いますし、投機的需要がメインの資産だと、多くの人は手を出しにくいはずです。

――ご自身の論文で「暗号資産やセキュリティ・トークンなどの電子記録が代替通貨として自然に普及することはない」とされていますが、どのような要素があれば普及が進むとお考えですか。

今の法定通貨の機能を補完する形で暗号資産の技術を活用すれば、ユースケースが出てくると考えています。

現状暗号資産は、残高を無条件に利用者間で移転できるので法定通貨との交換に制限がありません。その結果、法定通貨建ての価格で評価されて、金融資産としては法定通貨と同化しています。さらに決済手段としての利便性は法定通貨に劣るので、社会に普及していません。

法定通貨と暗号資産を交換しやすくしようとするのが現在の方向性ですが、暗号資産の移転に条件を付け流動性を下げると、法定通貨を補完する機能を暗号資産が提供できる可能性があります。

例えば、介護保険を暗号資産の流通で代替することを考えてみましょう。自分が介護サービスを提供すると介護コインを貰えて、その後、自分が介護を受ける際も介護コインが必要だとします。介護を受けずに死んでしまうと手持ちの介護コインは使われずに消えるので、介護サービスを提供して介護コインを受け取ると、介護保険のような機能を持つ資産を得ることになります。

これまでの暗号資産は流動性を高めることを重要視してきましたが、どういう条件でどのようなサービスに対して暗号資産を使えるようにするかということを考えて暗号資産を設計すると、現在の法定通貨を補完する機能を提供できるようになります。このような観点からすると、GameFiでゲーム内の特定のイベントにしか使えないNFTがあったりNFTを持っていると一定の条件の下でゲーム内での報酬が貰えるということは、サービスと暗号資産のリンクの1つの例としてみなせると思います。

――サービスとリンクさせる以外にはどんな要素が必要でしょうか。

ビットコインのPoWが良い例ですが、暗号資産はプラットフォームの運営に貢献すると残高が発行されます。これは現代の決済システムには無い仕組みです。現代の決済システムでは、手持ちの資金が足りない人に対して、銀行が審査をした上で新しい預金残高を発行し、その後、預金残高が銀行に返済されると、その預金残高が世の中から消える仕組みになっています。暗号資産と銀行預金の仕組みの違いを活かして、暗号資産の特長をどう伸ばしていくかというのが大事だと思っています。今後の暗号資産の設計では、新しい残高の発行条件をもっと深掘りするといいと思います。

日本での規制は今後どうすべきか

――日本に新しいイノベーションを導くためにはどのような政策が必要でしょうか。

日本は利用者保護の哲学が強く、アメリカなどの国とは大きく異なります。その日本にイノベーションを導くことは簡単ではありません。NFTを例にとると、今後大きなブームが起こった場合、詐欺的な事案が発生することは避けられないと思います。

その対応として金融庁が登録制度などの規制をかけ、その結果、正規事業者の利益率が下がり、事業展開のフレキシビリティが落ちる恐れがあります。金融庁もそれを懸念して、無駄な規制はしたくないというスタンスだと思いますが、利用者に被害が出ると、社会的には防止策をとらなくてはならず、政府の立場では規制をせざるを得ません。

個人的には、起業家が自分のアイデアを実装した結果、資金、サービス、人が順番に動いて、社会を変えていくというのは広い意味での芸術的な所作の一つだと思うので、そういった人々の自由で創造的な営みを止めない形で利用者保護を常識的な程度に確保していくのが日本の課題だと思います。

そのためには、知識がある人向けのマーケットと、一般大衆向けのマーケットをどれだけ分けられるかがチャレンジだと思います。事業者が政府と議論していきながら、利用者保護が要るマーケットと要らないマーケットを切り分けられるとよいと思います。

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