全国web3サークル探訪記

大学生から見るweb3 第1回「本郷Web3バレー」(東京大学)

  • 印刷
  • 共有
日頃のリサーチ内容やコーディングでわからないところを共有している定例会の様子
日頃のリサーチ内容やコーディングでわからないところを共有している定例会の様子

web3の分野では、特に若い世代に勢いがあることが特徴の一つとなっている。web3ビジネスでは、web3の今後を担う大学生に焦点を当て、web3の未来を探る。第1回では、東京大学の「本郷Web3バレー」共同代表を務める2年生の松浦拓夢さんに話を聞いた。

研究会として、地に足を付けた議論を推進する

ーー設立の経緯について教えてください。

東大にweb3の研究会がなかったので作ったと聞いています。web3は掴めない、実態がわかりにくい分野なので、勉強したい人たちが集まって、研究会ができたのが2022年の6月です。今はメンバーが100人弱で、「Web3で未来の日本を牽引する東大生の拠点になる」ことをビジョンに掲げ、事業を作り開発もする最強の集団を目指しています。

このビジョンは設立当時から変わっていませんが、僕が共同代表になってからは、よりしっかり地に足をつけて議論を推進していこうという色合いを強めています。というのも、web3というと市場自体波があって不安定ですし、バブルと言われたり、投機的な対象とされたりすることがあり、そういうところに弄ばれてもしかたがないからです。きちんとコンピュータサイエンスや数学、政治・哲学など、既にある学問分野から今のブロックチェーンを見て、実際どうかということを真剣に議論できる場になればいいなと考えています。

ーーでは「web3について学ぶ」というより「実践的な議論をする」という雰囲気なのでしょうか。

どちらかというと、より実態に近い議論をして事業を進めていこうというメンバーが多いですが、初心者もいます。今は活動として輪読会を開催して、記事を翻訳して読んでいるのですが、それぞれスタンスは違っても、そういうリソースを自分に役立つよう活用してもらえればと思っています。

ーー輪読会ではどのようなものを教材にしているのですか。

大学のプログラムでシリコンバレーに行かせていただいて、そこでスタンフォードブロックチェーンクラブとご縁があって、彼らのレビュー記事を翻訳しています。翻訳したものは、僕たちが議論した内容と合わせて公開しています。

内容としては哲学的な視点から運営を見直してみようとか、あとは暗号学的なところからゼロのレンジを知っていこうとか、学問的な視点からブロックチェーンの分野を俯瞰的に見ているところが特徴です。初心者にもわかりやすく、内容が深くて勉強になります。

ーー活動内容としては輪読会がメインですか。

団体全体の活動としては、輪読会を週に1回開催しながら、ハッカソンを毎年開催しています。次回は12月に「web3×サステナビリティ」をテーマに開催する予定で、豪華賞金、スピーカーやメンター、ハンズオンセッションを着々と準備しているところです。また、僕たち以外でハッカソンを開いているところがあれば、一緒にキックオフイベントを開くこともあります。

web3が手段として使われる未来に期待

ーー松浦さんは、web3分野のどのようなところに可能性を感じていますか。

今の動きを見ていて、web3は日本において可能性があるかというと、あまりないような気がしています。ただ、「web3自体が成功する」というより「web3が手段として使われて成功する」未来は大いにあると思います。プルラリティ(多元論)という文脈で、ブロックチェーンなどのweb3技術が使われて、その結果世界が分散化されて、便利になるという面には期待しています。

エンタ―テインメント面でNFTは新しい分野として生まれつつありますが、大きい領域にはならないと見ています。あとはweb3というよりブロックチェーンについてですが、ブロックチェーン関連のアセット(資産)取引は便利なので、そういうところはこれからは発展していくと思いますが、それはブロックチェーンであってweb3ではないので、web3の可能性とは違うかもしれません。

ーーweb3という大きなくくりの中にブロックチェーンやNFTがあるという認識でしたが、松浦さんや研究会では別と捉えているんでしょうか。

関連はしていますが、分散化とブロックチェーン技術はまた別のことで、分散化のためにブロックチェーン技術を使うのはweb3ですが、ブロックチェーンで透明化することができるということは、かえって中央集権の道具に使うこともできるわけで、そうなってしまうとweb3とは呼べないですよね。

ただこの領域ってバブルだったりしていて、その認識ができていない人が多いという印象です。今はもう生成系AIが来てますけど、半年前ならweb3というだけで資金調達がしやすいようなマーケットだったと思うので、ブロックチェーンやNFTの技術を使う必然性がないプロジェクトが生まれては消えていくような良くない流れがあった気がします。そういう意味で、地に足をつけた議論を進めていきましょうというところに繋がるわけです。

ーー日本の中で、web3が正しく手段として使われて、今後もっと浸透していくために必要なことは何だと考えていますか。

web3の使い方をわかっている人がロビイング(企業や利益団体から、自国政府や国際機関に働きかけをすること)に成功することが大事だと思っています。ブロックチェーンを使う必要がないのにやたらと騒いでるような人たちが成功したとしても、結局中身のないサービスが生まれては消えていくだけなので、しっかり全員にとって価値あるものが何かを考えている人が成功することで、パブリックグッズとか、そういう領域においてブロックチェーンが浸透していくと思います。

また、大きな社会・経済的にインパクトが起きづらい面、例えばエンタメ分野だと、参入障壁は低いので、いろいろな人がどんどん挑戦しています。そうしてたくさんの事例ができることで、いい感じにでき上がっていくのかなというふうに見ています。

「日本全体のweb3の議論の質を上げる」

ーー研究会として、松浦さんとしての今後の展望や目指す姿をそれぞれ教えてください。

サークルとして、今は既にある記事を翻訳していますが、いずれは自分たちで仮説・検証した記事を出して、日本の人にもっとブロックチェーンの根本的な部分を知ってほしいです。一応大学の名前を背負っているので、政治・哲学やコンピュータサイエンスなどアカデミアしている文脈と結びつけながら、根拠を持って示していかなければと思います。

最終的な目標で言うと「日本全体のweb3の議論の質を上げる」というところだと思っています。ゆくゆくは海外など、議論の進んでいる大学とイベントを開催したりして、一緒に進めていきたいです。

僕個人としては単純に、教養という意味でweb3をいろいろな事象と紐付けて見ていると楽しいので、好奇心のきっかけとして、特にビジネスサイドで何かをしたいというよりはおもしろい現象の一つとして捉えて関わっていければと思っています。

松浦 拓夢(まつうら・たくむ)さん 
本郷Web3バレー共同代表
東京大学教養学部2年生
松浦 拓夢(まつうら・たくむ)さん 
本郷Web3バレー共同代表
東京大学教養学部2年生

この記事にリアクションして1ポイント!(※300ポイントで有料記事が1本読めます)

関連記事