デジタル・人工知能分野を研究 一橋大学教授・市川類氏に聞く

ハイプ・サイクルから読み解くweb3の隆盛(前編)

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次世代インターネットであるweb3に社会の関心が集まっているが、新興技術のイノベーションの過程においては、何らかの出来事がトリガーとなり、社会から多くの関心を集めることがある。その関心がどのような経過を辿っているかを研究しているのが、一橋大学教授の市川類氏である。市川氏は、デジタル・人工知能などの先端技術分野のイノベーション政策研究を進めている。

注目や期待など、社会からの関心が非常に高い状態のことを「ハイプ」と言い、市川氏は特に人工知能や、web3のハイプを研究してきた(論文:「Web3に係るハイプの生成メカニズムと今後の修正の方向 ~イノベーション論から見たハイププロセスに係る新たな理論の構築~」)。今回はそんな市川氏に、web3に対する社会の関心について話を聞いた。(前編/前後編)

一橋大学 経営管理研究科 経営管理専攻 教授の市川類氏
一橋大学 イノベーション研究センター 教授の市川類氏

ハイプ・サイクルで社会の適用度がわかる

――ハイプ・サイクルとはどういったものなのでしょうか。

「ハイプ・サイクル」は 、アメリカのITデジタル系の調査会社であるガートナー社(Gartner, Inc.)が概念化したものです。

ガートナーのハイプ・サイクルは、テクノロジとアプリケーションの成熟度と採用状況、およびテクノロジとアプリケーションが実際のビジネス課題の解決や新たな機会の開拓にどの程度関連する可能性があるかを図示したもので、テクノロジやアプリケーションが時間の経過とともにどのように進化するかを視覚的に説明しています。

ハイプ・サイクルには5つのフェーズがあり、初期の概念実証などが始まり注目が集まる「 黎明期」から始まり、「『過度な期待』のピーク期」、成果が出にくく関心が薄れる「幻滅期」、具体的な事例が増え理解が広まり、イノベーションが立ち上がってくる「啓発期」主流採用が始まる「生産性の安定期」に至ります。

出典:ガートナー リサーチメソドロジ ハイプ・サイクル

web3の現状と今後

――web3は現状どのようなフェーズにありますか。

ガートナー社は、各新興技術のハイプ・サイクル上の位置づけを、毎年夏頃発表しています。2022年8月に発表された2022年版「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」では、web3は一番上のピーク、「過度な期待」のピーク期のところに出てきました。

ガートナー社は、縦軸を当該技術に対する社会の期待度と定義しているのですが、それは概ね社会の関心であり、今の時代で言うとインターネットの検索数に現れてくると私は考えています。Googleトレンドで見ると、web3という言葉は2021年8月くらいまでは殆ど検索されていなかったのですが、9月、10月を通して急激に上がりだして、世界全体では2021年末にピークを迎えました。

日本では、web3という概念をアメリカから輸入した形になるので、2022年に入った頃から徐々に関心が集まり出して、2022年6月頃ピークを迎えています。このような流れでガートナー社の2022年版の「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」にweb3が新たにハイプとして位置づけられたのだと見ています。なお、その後の検索数の推移を見ると、ピークよりは下がっていますが、現時点においても引き続き高いレベルを維持しています。

また、技術的な有望性とは異なる意味で関心が高まることもあります。例えばビットコインは、2011年に最初のピーク、その後2013年のキプロス金融危機の際にも関心が高まり、少し落ち込んだ後、再度2017年、2021年のバブルで値が上がると関心が高まりました。

これは技術ではなく、投資関心としての高まりです。その後何も無ければ関心は下がりますが、技術的な話に限らず、成功事例が出てくると、関心がまた上がります。そういった意味で、web3については、まだピークでない可能性はあります。

[出典&免責]

Gartner®, Press Release, 2022年8月16日 “Gartner、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表”

Gartnerは、Gartnerリサーチの発行物に掲載された特定のベンダー、製品またはサービスを推奨するものではありません。また、最高のレーティング又はその他の評価を得たベンダーのみを選択するようにテクノロジーユーザーに助言するものではありません。Gartner・リサーチの発行物は、Gartner・リサーチの見解を表したものであり、事実を表現したものではありません。Gartnerは、明示または黙示を問わず、本リサーチの商品性や特定目的への適合性を含め、一切の責任を負うものではありません。GARTNERは、Gartner Inc.または関連会社の米国およびその他の国における登録商標およびサービスマークであり、同社の許可に基づいて使用しています。All rights reserved.

――web3がハイプとして位置付けられたことでどのようなことが起こるのでしょうか。

今回、web3がハイプとして位置づけられたことでweb3の認知は社会的に高まったと思います。今後のweb3のイノベーションの進展を考えると、このようにweb3を認知する層が厚くなったことは非常に重要です。

一方で、ハイプ・サイクル内で「過度な期待」のピーク期に位置づけられる時には、大抵の場合、「ブロックチェーン(分散型台帳)の技術を使えば、夢のようなことができる」というようなPRが多く行われることになります。しかしながら、実際にブロックチェーンの技術をビジネスにしていくには、単に技術の向上だけではなく、様々なことを検討し組み立てていくことが必要になります。例えば、どの分野に適していて、顧客をどう見つけて、どうビジネスモデルを構築していくかといったことです。

また、その技術を利用したビジネスが社会に受容され、そのビジネスの利用者が増えてくると、当初想定していなかったような問題がでてくることがあります。今後のweb3のイノベーションの普及を考えると、その議論も非常に重要になると思います。

イノベーションの普及論で言うと、NFT(非代替性トークン)を含めても、web3は、世の中の人口の1%くらいの人(イノベーター)しか利用していないのが現状だと思います。今後、アーリーアダプターという、全人口の約16%を対象にビジネスを拡大していくには、いわゆる流行りもの好きだけを対象とするビジネスとは異なる、新しいビジネスをどう作っていくかが重要になります。

新たなビジネスを作り、成功事例として示すことによって、もう一度web3への関心を高め、ピークを迎えることができるのではないかと思います。

(後編はこちら

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