CoinPost代表・各務氏に聞く

web3領域の今後の可能性と展望

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(出所:CoinPost)
(出所:CoinPost)

暗号資産・web3メディアの「CoinPost」が2023年7月25・26日にアジア最大級のグローバルWeb3カンファレンス「WebX」を開催した(参加レポート)。主催のCoinPost代表取締役の各務貴仁(かがみ・たかひと)氏に話を聞いた。後編では、web3領域の可能性と、今後の展望について聞く(前編はこちら)。

海外から見た日本の評価は?

前編では、日本のweb3分野には、日本政府の方針策定や大手企業の参入を背景に、世界から注目が集まっていると述べた。しかし税制などの事業環境や、情報の面で後れを取っているという声もある。世界から見て、現在日本はどのような立ち位置にいて、これからどのようにweb3分野を推進していくのか。

「誤解が生じやすいポイントですが、整理をしなければいけないのが、『報酬や収益に対しての税金関連』『ビジネスをを支える法律』の二つの視点があるということです」と各務氏。

前者について、これまで日本は暗号資産に対する税制や会計制度など、事業を行う環境としては課題が多く、海外のほうが「稼げるから」というより、「日本では税金で破綻してしまう可能性があった」という。そのため、web3のスタートアップ企業などは、国外へ拠点を移すケースが多かった。ここを指して「日本は後れを取っている」と言われることがあったが、この点は現在政府が改正・改革を進めている。

一方で、日本は国としての法整備の面では非常に進んでいると各務氏は見ている。各務氏は、「日本は投資家保護の領域や、事業として何がOKで何が駄目かという部分で、パブリックコメントを集めるところからしっかり進めているので、この後者がグローバルで評価が上がっているポイントだと思います」と話す。

米国を例にすると、州ごとのルールはあっても、全体での法規制は整備が進んでいない。また、web3の領域に特化した整備もされておらず、既存の法律に当てはめて判断する方針をとっていた。反対に日本は既存のものに当てはまらない新しいサービス・技術をどう捉えるかという意味で、時間をかけて法整備をしてきたことが評価されているという。

「今後、前者の税制面の改善や、web3特区を作るなどの事業者支援が進めば日本は今後さらに優位性を持てるのではないかと思っています」

STが今後発展していく

各務氏は、日本のweb3領域における可能性として、一番最初に根付いてくるのはセキュリティ・トークン(ST)を使った領域だという。STとは、株式や債券などの有価証券をブロックチェーン技術によってデジタル化したものを指し、「デジタル証券」とも呼ばれる。

ここで関係してくるのが価格の安定を目的に、法定通貨と連動するよう設計された暗号資産であるステーブルコインだ。裏付け資産がないため価格変動が激しく、決済手段としての活用が進まない暗号資産の普及を促し、実用性を高めるために設計された。

2023年6月、令和4年改正資金決済法等が施行され、ステーブルコインの取引について規制が設けられた。一部のステーブルコインについて、取り扱い業者が規制されることとなり、業者にとっては予測可能性が確保され、利用者は安全性が担保されるようになった。

「STの領域は金融に近い領域と捉えられていましたが、日本で6月にステーブルコインの法整備が進んだことが転機になりました。STは、技術をすべてデジタル化したとしても、通貨をデジタル化しないことにはサービスとして成り立たず、完全に理想型にならない部分がありました。そういった意味で今回、日本円をサービスの上で自動で動かせる環境ができたことで、STの領域は今後かなり発展すると思います」

一例として、地域の歴史・伝承、酒米や水環境などの要素が詰まった「日本酒」は世界で需要が高く、単純に「飲みたい」だけではなく、「投資として持っておきたい」需要が増えている。その投資としての需要を取り込むことに期待されるのがSTの活用だという。

日本酒に限らず海外市場で商品を売る際、これまでは製造のために銀行借り入れなどで資金調達を行い、製造・パッケージ化、輸出・配送した後に売り上げが得られるという流れだった。

「製造すると発表した段階で、例えば『10年後にその商品が手に入る権利』をSTとして販売すれば、銀行の借り入れ以外の手段が増えます。製造元の酒蔵もその資金で安定経営ができますし、権利がやり取りされれば権利報酬も期待できます。輸送のコストがある程度カバーできるような形で販売すれば、負担がない状態で、ビジネスの安定性と、新しい収益の確保に繋げていけると思います」と各務氏。トークンを用いることで海外との取引もしやすく、こういったマーケットの問題をクリアできるところはweb3の強みだという。

プロジェクトに賛同する人から広く資金を集める仕組みとして既に知られるクラウドファンディングとの大きな違いは、権利自体を売買できること。上記の例で言えば、10年間の中で需要と供給は変動し、日本酒の需要が高まれば高まるほど、その権利の価値は上がっていく。支援的な側面も持ちつつ投資という意味合いが強くなる。

メディアの変革にweb3が寄与する未来

アジア最大級のグローバルWeb3カンファレンスとして、2023年の「WebX」を成功させた同社並びに各務氏。海外と日本企業のビジネス交流を促しながら、情報が集まりビジネスが生まれる場として今後も開催していくという。

今後の展望を聞くと、「メディアは今後大きく変革する。そこにweb3が貢献できるのではないかと思っています」と各務氏。各務氏は、AIの活用やSNSの発達が進む中で、個人がメディアに参画する流れは加速して、情報の信用性が落ちていくと見ている。

そこにブロックチェーン技術などを用いて個人の信用が担保された情報にアクセスできる領域を作れるのではと、実際に動き始めているという。

「発言者が本人か、どういう経歴を持つ人物なのか。今後メタバースやオンライン上で社会活動を行う際により重要になる情報ですが、これは今、すごく分断されている状態です。各SNSに記載されている情報は分断されている上、自己申告にすぎません。それらがきちんと証明された形で、情報をさまざまなサービスで使っていけると、メディアの信用力や価値が上がっていくんじゃないか。そこに取り組んでいます。情報の領域にはweb3とかクリプトがうまく作用できると思いますので、POC(概念実証)を進めつつ、メディアだけでなく他の産業にも横展開していくようなことを描いています」

「WebX」は、既に2024年の開催が決定しており、各務氏らは開催に向けて動き出しているという。「web3ビジネス」はメディアパートナーとして、引き続き支援していく。

前編はこちら

各務 貴仁氏 株式会社CoinPost 代表取締役社長
各務 貴仁氏 株式会社CoinPost 代表取締役社長

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