次世代の分散型インターネットであるweb3の技術が様々な業界で活用され始め、金融業界でも同様の動きが見られている。DeFi(分散型金融)という、特定の管理者が存在せず誰でも参加できる金融サービスにも注目が集まっている。
「フィンテックの資金決済システムへの影響と金融規制への含意」の著者で、主に金融制度分析を研究している早稲田大学教授で経済学者の戸村肇氏はweb3をどう見るのか。web3が決済システムに与える影響、また、暗号資産やNFT(非代替性トークン)などのweb3技術が今後どのような道を進むのかを話してもらった。(前編/前後編)
「現代の決済システムはわかりにくい」戸村氏の考える現在の決済システム
ーーweb3について話していただく前に、現在の決済システムについてどうお考えですか。
本来の決済システムは、民間銀行が預金を貸し出すことで新しい預金残高が生まれる仕組みになっています。中央銀行は銀行間送金の決済を担っており、各銀行が他の銀行へ預金を送金するためには、中央銀行が発行する当座預金を送金先の銀行に送らなければいけない仕組みになっています。民間銀行は国債など安全性の高い証券を中央銀行に差し出すと銀行準備を得られます。一方、預金者に払い出す現金が必要な時は、民間銀行は銀行準備を現金の形で中央銀行から引き出すこともできます。このように、銀行準備は現金を引き出せる当座預金でありながら、現金ではなく国債などの証券と引き換えに発行されます。この点は、現代の決済システムの仕組みのわかりにくさの一因になっていると思います。
web3、NFT、セキュリティ・トークンの将来性
――web3の技術は今後の決済システムにどのような影響を与え得るのでしょうか。
民間銀行と中央銀行の2層構造が今後3層構造になり、3層目を暗号資産やセキュリティ・トークンが担う可能性はあります。例えばDCJPYという、銀行預金に裏付けられた暗号資産の取引をブロックチェーン上の台帳に記録するサービスの構想がありますよね。3層構造のアイデアはどういうものかというと、民間銀行と企業や家計の間に新たな層としてDCJPYのようなデジタルの決済手段が入るということです。ただ、必ずしも暗号資産が3層目を構築していくとは限らなくて、電子マネーなどの他の決済手段がそこを担う可能性もあります。
――web3の印象や将来性についての考えを教えてください。
今のままでは社会実装は進みにくいと考えています。web3の1つのポイントは、利用者が共有するプラットフォームに分権的なガバナンス構造を導入し、機能を自動化することです。ただ必ずしも人間の認知能力は高くなく、分権的な組織の運営はうまくいきづらい。例えば理解度の差や誤解があるまま運営についての投票をすることがあり、現状そういった問題の対策として垂直的なガバナンス構造の導入が必要になり、結局web3のコンセプトから外れてしまいます。web3のプラットフォーム共有のアイデアはアップデートしていかないと社会実装は実現しにくいと思います。
また、株式会社も、会社法では生産手段を民主的に共有する仕組みとして株主総会で会社の運営方針を決めることになっていますが、現状そうなっていません。組織をユニットに分けて経営管理していく必要が生まれてくるので、株主からすると会社が何をやっているのか把握できない問題が生じます。それらの問題をweb3ですぐに解決できるかというと、専門知識のある人だけで共有するならいいですが、不特定多数の間ではうまくいきません。そういう意味では、民間プラットフォーマーがwebサービスを提供していく流れはなかなか覆せないのではと思っています。
――NFT活用の可能性についてはどうお考えでしょうか。
NFTについては、所有権を担保するというイメージがありますが、証明するものではないので、何らかのサービスと結びついたNFTの形が有望だと思います。そういう意味ではGameFiは興味深い方向性だと思います。
ただ、今のNFTには2つの弱みがあります。1つ目は、資産として規制の対象になる可能性があること、2つ目は暗号資産と強く結びついていることです。GameFiをはじめとするNFTサービスは金融サービスと捉えられてもおかしくないので、今後規制の網にかかって、事業コストが上がる可能性があります。
また、現状のNFTは暗号資産との結びつきが強く、金利上昇の影響を受けやすいので、その結果NFTの価値も大きく下落する恐れがあります。現在の通貨とNFTの価値を結びつけることを検討するべきだと思います。ただシステム設計を考えると、NFTと銀行預金の交換を円滑にするのは容易ではありません。こういった弱みはありつつも、GameFiなどでの活用例を聞く限りではNFTのアイデアは面白いと思います。
――セキュリティ・トークンの今後についてはどうお考えですか。
セキュリティ・トークンの今後の不安材料は金利上昇です。金利が上がると一般にリスク性資産への投資は減ります。つまり、金利が高いときにセキュリティ・トークンを発行しても新しい資産として関心を集めることが難しい可能性があります。不動産を裏付けにしているセキュリティ・トークンが今はメインだと思いますが、一般投資家にはリターンよりもリスクの方が高いと思われてしまうかもしれません。
ただ、セキュリティ・トークンの強みは既存の有価証券に比べて機能面のデザインをしやすい点だと思います。例えば株式であれば、株主優待の使い勝手をより良くするためのインターフェースを導入するために使えるかもしれないと思っています。
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