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最終更新日:2023年11月02日

ANAのNFT事業 新規事業を生み出し続ける価値創造チームとは

全日本空輸(ANA)は2023年5月30日、ブロックチェーン技術を活用した新たな事業として、NFT事業を開始した。日本を代表する航空会社がなぜNFT事業を始めることになったのか。発案のもととなったCX推進室業務推進部価値創造チームの取り組みを中心に話を聞いた。

航空事業にとらわれないANAの第2、第3の柱を作る

航空事業を中心としたエアライングループとして、国内外の航空ネットワークや顧客基盤を活かしながら多様な事業を展開しているANAグループ。

2020年の春から始まった新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の生活は一変し、飛行機は飛ぶことができなくなった。航空業界は大打撃を受け、ANAも深刻な経営危機に陥ったという。

そんな中で、現在の代表取締役社長の井上慎一氏の特命で、22年4月にCX推進室業務推進部内に価値創造チームを新設。新規事業開発の組織である価値創造チームを担当部長として率いる野中利明氏は「2020年の年末から企画構想を練っていて、井上の言葉を借りれば『誰も拾わないボールを拾うチームを作る』ということで多くの特命事項が課せられることとなりました」と振り返る。

「飛行機を飛ばしたくても飛ばせないという時期が長く続く中でのチームの立ち上げでした。当時は『1円でも多く稼げ』という大号令を受け、それが社員の提案制度につながりました。航空事業だけにとらわれない、ANAグループとしての第2、第3の事業の柱をどう作っていけるかということを今トライしているところです」(野中氏)

価値創造チームでは、年度ごとに全社員から新規事業のアイデアを公募する。毎年100件ほどの公募があり、そのうち10件ほどを採択し、採択したものはほとんどが新規事業や新サービスとしてローンチできているという。

「評価の軸としては、『収益性』、『革新性』、『実現性』、それから『ANAが取り組む意義があるか』ということを重視しています。特に他社にないサービスか、同様のサービスがあったとしても、差別化要因、もしくは切り口の新しさがあるのかは、しっかり見ています」(野中氏)

採択されたNFT事業

2023年5月に開始を発表した、NFT事業もこの価値創造チームで担当している事業だ。発案者で「ANA NFT PROJECT」のリーダーを務める高野悠氏(※「高」は正式には「はしごだか」)は、それまで全く別の部署にいたが、提案したNFT事業が採択されたのを機に、価値創造チームに移動してきた経歴を持つ。

(出所:ANA)
(出所:ANA)

高野氏は「社内の別の新規事業提案制度があり、そこに『地域を巡る仕組みを作りたい』という想いで全く違う事業を提案していました。航空券のシステムを変えることを考えていましたが、それにはかなり時間がかかるということがわかり、同じ目的を違うソリューションで実現できないか模索した結果、NFTに行き着きました。NFTで何かしようということではなく、目的のために有効な手段がNFTだった、ということです」

NFT事業は、2020年8月に設立されメタバース事業を行うANA NEOがNFTマーケットプレイスの構築・出品管理を行い、ANAがコンテンツの企画制作・出品を受け持っている。

NFTの第1弾として、航空写真家のルーク・オザワ氏のデジタル写真をNFT化したものを販売した。ルーク・オザワ氏はこれまでデジタル写真を販売してこなかったが、NFTは唯一性が担保されることから、販売に至ったという。

第2弾ではANAがローンチカスタマーとして世界で初めて導入したボーイング787初号機の特別塗装機と、当時デザイン案として検討されていたものをNFT化し販売した。

ANAグループがNFT事業に取り組む意義

ANAグループは、2023年を経営ビジョンを刷新し「ワクワクで満たされる世界を」をテーマに掲げた。その中で、空から始まる多様なつながりとして、リアルからバーチャルへと領域を拡大すると発表している。

NFT事業はそのビジョンに沿ったものではあるものの、「NFT事業を形にする過程で、最初から複雑なビジネスモデルに走ると、これまでずっと応援してくださっているANAのマイレージ会員のお客さま約4000万人を置いていくことになるのではないかという懸念がありました」と高野氏。

そこで、「最初はわかりやすいNFTを出したい」とANAオリジナルNFTの販売から始めることになったという。オリジナルNFTでNFT事業の基盤を作った後に、地域創生に関わるNFTを出す方向性だ。高野氏は「その先に新しいお客さまとの繋がりが見える」と話す。

そもそもANAがNFTに取り組む意義としては大きく二つあるといい、一つは「価値の創造」だ。

高野氏は、「NFTはデジタルでの所有、飛行機はリアルの移動手段を担うため、両者を掛け合わせることで、地域のNFTを所有していれば、そこに行きたいという移動需要が喚起できるのではないか、新たな価値創造ができるのではないかと思っています」と話す。

もう一つは「新しい接点」だという。「NFT、ブロックチェーンなどのweb3の分野は国境を越えられるものだと思います」と高野氏。日本国内ではある程度存在が認知されているものの、海外での認知がANAの課題になっているという。

「NFTという入り口から、ANAを知ってもらい、日本に来ていただくようなマーケティング効果を狙えると思っています」という高野氏の狙い通り、実際に第1弾をリリースしたタイミングで、ANAが就航してない国も含めて、海外30カ国からのアクセスがあった。

ANAのweb3事業

NFT事業のマーケットプレイスを支えるANA NEOは、2020年8月に設立され、メタバースの技術を活用して、「旅」を軸としたバーチャルトラベルプラットフォーム「ANA GranWhale」の開発を行っている。

ANA NEOのシステム部でリーダーを務める亀岡孝行氏は「非航空事業を拡大するANAグループの取り組みの中の一つとして、ANA NEOは設立されました。『旅に行きたいけれど行けない』というお客さまのためのバーチャルの旅や、リアルで行く前の予習として旅の体験を提供したりという、旅に特化したプラットフォームを作ろうという構想がコロナ禍以前からあり、設立に至りました」と話す。

ANA NEOは、「バーチャル体験を通して世界中の人々にわくわくする非日常体験をお届けする」ことを目指している。

「『Sky Mall』というメタバースでお買い物ができるエリアや、現実の場所を撮影した素材からバーチャルエリアを再現し、旅の体験ができる『V-TRIP』などの仕掛けを作っています」と亀岡氏。

既に2023年6月にアジア5地域、台湾、香港、タイ、フィリピン、マレーシアにサービスを先行して展開しているという。

「メタバース空間の中ではデジタルアイテムの所有や管理は切り離せない要素で、設立当初からNFTは技術要素として検討していました。その頃、新規事業制度で高野の案が採択されたことで、プラットフォームを作って一緒にできるんじゃないかということで協業を開始しました」(亀岡氏)

メタバースは、今は買い物や旅の体験ができるサービスを展開しているが、将来的には日常生活に近い暮らしの体験を見据えているという。「日常の一部の時間をメタバースで過ごすことが当たり前の時代が来るかもしれないので、そういうところを見据えています」と亀岡氏。

それを踏まえ、メタバースの中では将来的には金融、保険や行政サービスなどの導入も視野に取り組んでいるという。「土地の概念が生まれ、その部分にもNFTの技術が必要になってきます。NFTは目的ではなく手段ですので、手段として使っていきたいと思います」と亀岡氏。また、ANAのリアルの航空事業に結びつけていくための手段として、メタバースとNFTの掛け合わせに期待しているという。

「web3業界はこの先どうなっていくか誰もわからない領域だと思います。NFTがツールとして残り続けるかどうかもわからないですし、『ANA GranWhale』はスマートフォンアプリから開始しますが、デバイスの進化も激しいので、そういう技術進化は、期待でもある一方一番の課題だと思います。追随するにはそれだけの時間とコストもかかりますし、追随して全部に対応できたら、いいものができるかもしれませんが、普及率や市場規模、開発コスト等とのバランスをとりながら進めていければと思います」(亀岡氏)

新規事業の肝はスピード感と「バットを振り続けること」にあり

既存のANA NEOとの相乗効果も相まって、NFT事業は注目を集めており、今後が期待される。では、新規事業が形になる成功要因はどこにあるのか。それは「とにかく時間軸」と野中氏。

この新規事業提案制度では、春に募集を開始、夏に1次審査が始まり、秋に最終審査、正式に審査に通って稼働を始めるのが11月から。その後同年度の3月末までに着地(=ローンチ)させることを条件としているという。採択されたものには、価値創造チームの担当者が「伴走者」として、提案者をローンチまでサポートする。その伴走者の存在もこのスピードを支えている。

「年度内の着地が難しければ、次年度に再挑戦するように伝えていて、再挑戦で通った案件もあります。新規事業は一度で形になることは少ないので、『バットを振り続ける』ということを大事にしています」(野中氏)

また、提案制度では、「やりたいことを提案する」スタンスをとっているため、提案者が普段担当している業務分野ではないことが多いというが、審査を通過すると全体稼働の2割を新規事業に割くことが認められており、全社的に新規事業を後押しする空気感があるという。

「『新規事業専任者の島を作ってそこで考えさせる』といういわゆる『出島理論』がありますが、最終的には既存の部署で引き継ぐことになるので、この進め方だとどうしても軋轢が出るんですよね。そうではなくて、今の仕事をやりながら、新規事業を考えることが当たり前の組織を作りたいという思いもあって、『二刀流人材』をいかに組織の中で増やしていくかということを意識してやっています」(野中氏)

今後の展望について野中氏は、「コロナの時期から始まったチームで、これまではすぐに結果が出るものにこだわってやってきました。ただ本当に航空事業に次ぐ第2、第3の柱というレベル感で考えると、年度内に実現できるものだけでは成し得ない。そういった限界は既に感じているので、すぐに実現するものはやりつつも、少し時間軸を伸ばした、かつ規模の大きい投資も伴うようなものを、並走的にやっていかないといけないと思っています。制度や組織体をどうするか、そういう話が絡んでくるので、単にこの業務推進部というところに閉じない話。全社を挙げて取り組んでいくべきだと考えています」と話す。今後のANAの第2、第3の柱が生まれる日は遠くないかもしれない。

野中 利明氏
野中 利明氏
全日本空輸 CX推進室 業務推進部 価値創造チーム 担当部長
高野 悠氏(高ははしごだか)
高野 悠氏(高ははしごだか)
全日本空輸 CX推進室 業務推進部 価値創造チーム ANA NFT PROJECTリーダー
亀岡 孝行氏
亀岡 孝行氏
ANA NEO システム部 リーダー

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