これからのキーワードは「共創」 NEC、安全なデータ活用でweb3の社会実装を支える

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岩堀耕史氏(左)と樋口雄哉氏(右)。NEC本社ビルにて
岩堀耕史氏(左)と樋口雄哉氏(右)。NEC本社ビルにて

日本電気(NEC/東京都港区)は、2022年12月に「web3コミュニティ」の開設を公表した。多様なパートナー企業との共創を通して新たなビジネスの機会を創出し、web3の社会実装と安全なデータ流通の実現を目指す目的。パートナー企業の募集は2023年4月より開始する。その狙いや目指す社会像について、同社デジタルビジネスプラットフォームユニット 生体認証・映像分析統括部の岩堀耕史氏と樋口雄哉氏に話を聞いた。

設立以来、ICTイノベーションの創出をけん引

NECは日本初の外国資本との合弁会社として1899年に設立された。総合電機メーカーとして、戦後の電話網の基盤導入や日本初の衛星中継システムに貢献し、近年では大容量データをやり取りするための光海底ケーブルや生体認証システムなど、「海底から宇宙まで」、社会を支える情報通信技術(ICT)イノベーションの創出をけん引している。

事業としては地方公共団体、医療機関、電力会社などにIT・ネットワークシステムなどを提供する〈社会公共事業〉、政府、官公庁や放送局などに社会インフラを提供する〈社会基盤事業〉、民間企業向けにITソリューションを提供し、顧客の新サービス立ち上げなどに貢献することによってバリューチェーン全体で新たな価値を生み出す〈エンタープライズ事業〉、国内の通信事業者向けに、ネットワーク構築に必要な機器や運用管理のための基盤システム、運用サービスなどを提供する〈ネットワークサービス事業〉、海外市場へ向け、生体認証ソリューション、サービスプロバイダ向けソフトウェア・サービスなどを提供する〈グローバル事業〉の5つを展開しており、今回の「web3コミュニティ」はそれらさまざまな事業と連携を行うことになる。

web3社会ではデータ流通の安全性が課題に

これまで多様な産業に対しシステムの開発・運用を請け負うSI(システムインテグレーション)事業や、データを活用した際のトラスト(信用性)をどうやって作り上げていくかという側面で知見を溜めてきたという同社。

「web3というトレンドによって、データ流通の形が今後変わってくることは間違いありません。その中で、これまで中央集権型でデータ管理されていたものが、個人または企業が個別に管理をして活用していくようになり、セキュリティやデータのトラストという観点で新たな課題が生まれてくるのではないかと考えています」(岩堀氏)

web3の技術はここ数年で非常にスピード感を持って革新が進んできている。リアルとバーチャルの接点が注目され、個人と企業、企業と企業がさまざまなデータをもとにデジタル上でつながる動きが活発になっている。

しかしデータのトラストやセキュリティに関しては十分な対策が取られていないという岩堀氏。「せっかく新しい技術領域や経済圏創出のチャンスがあっても、データ漏えいなどのリスクによって、うまく浸透していかないことは非常にもったいない。そこを支援していきたいという想いがあります」

web3業界では幅広い産業の企業がそれぞれの技術を持って事業を行う中で、「競争」ではなく「共創」という形をとるケースが主流になってきている。「当社も単独では成し得ない領域を、パートナーと共創しながら、データの側面で支援していけることが望ましいと考え、コミュニティの運営を進めていくことになりました」(岩堀氏)

パートナーと連携することでNECの強みづくりにも貢献

同時に、同社の「強みづくり」という意味でもweb3コミュニティは重要な意味を持つ。
日々の業務にあたりながら同社の強みづくりということに対して何ができるか考えてきたという樋口氏。

「当社と他社様のアセットを組み合わせ、課題解決に取り組むことで、新しい価値を構想し提案していきたいと思っています。web3に限らず、自社だけで何かを完成させる時代ではなく、パートナー連携という形を作っていかないと、顧客の要求への対応や、顧客への積極的な提案ができない状況だと認識しています。同じ方向を向いている皆さまとコミュニティ形成を通じて一緒に取り組みができることを期待しています」(樋口氏)

なお、web3コミュニティの構想が始まったのが2022年の夏頃で、プレスリリースの発表をしたのが同年の12月。およそ半年で公表に至ったところからも、web3業界のスピード感や、同社の「本気度」の高さが伺える。

ビジネス創出の場へ、積極的な姿勢求める

2023年4月にはパートナー企業の募集と並行して、取り組みをスタートする同社。パートナー企業同士での課題の明確化、技術の相互理解といった情報共有の場を形成する。さらに事業のアイディアや具体的なビジネスモデル、ビジネスにおける座組みの構築等の面でワーキンググループを組成、ブラッシュアップをして、アイデアを具体化していく。
また、それらの取り組みの発信の場としても機能していく予定だという。なお、サブテーマとして、「デジタルコミュニケーション」や「脱炭素・循環社会」などを設定する予定。

web3コミュニティのイメージ(出所:NEC)
web3コミュニティのイメージ(出所:NEC)

「データのトラストや生体認証等の当社の技術をコミュニティの中で活用しながら、社会にとって安全で安心できるユースケースを創出していくというところに貢献していければと思います」(岩堀氏)

なお、パートナーの募集は4月からだが、既に参画に関する問い合わせは少なくないという。「消極的な情報収集というよりは、積極的なアイデアとコミュニケーションによって共創していくというマインドを持った方の参画を期待しています。既にweb3のソリューションを提供しているかどうかは関係ありません」(岩堀氏)

コミュニティは最終的なゴールに「web3の社会実装」を設定する。ただ、「web3の社会実装については、公共財的な部分もあると思っていて、必ずしも今すぐ利益につながるとは限りません」と樋口氏。「その中でweb3のような新しい流れがどう社会に刷り込まれていくのかというところも興味を持って一緒に検討できたらいいと思っています」

コミュニティ活動については、大手企業からスタートアップまで、他業種から問い合わせがあったという。活動にあたっては、大手企業とスタートアップがお互いの強みを持ち寄ることで新しい価値が生まれ、社会実装をリードしていく形を理想とする。

web3の社会実装と安全なデータ活用を目指す

「web3コミュニティとしては、web3の社会実装をゴールとして、単なる情報交換の場ではなく、共創の場として、具体的なビジネスの実現によって新価値の創出を目指していきます」(岩堀氏)
同社は社会実装に向かっていく中で、構築される社会でのデータ活用が、利用者にとって安全であるよう尽力していく。

樋口氏は、「web3の社会実装が実現すると、人の生活や当たり前が変わります。ただエンドユーザーの琴線に触れないと生活様式は変わっていきません。琴線に触れるというのは、例えば『簡単で便利』や『うまい、安い、早い』のような部分。そこが4月以降見えていって、アプローチができていくとweb3の社会実装に少しずつ近づけるのではないかと思います」と展望を語った。

岩堀 耕史氏
岩堀 耕史氏
NEC デジタルビジネスプラットフォームユニット 生体認証・映像分析統括部 ビジネス開発グループ シニアプロフェッショナル
樋口 雄哉氏
樋口 雄哉氏
NEC デジタルビジネスプラットフォームユニット 生体認証・映像分析統括部 ビジネス開発グループ ディレクター

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