Web3.0政策推進室室長に聞く web3ビジネスの可能性

web3産業振興にも注力 「当たり前に事業が行える環境をつくっていく」

  • 印刷
  • 共有
web3_1129_01
web3_1129_01

経産省は2022年7月、「大臣官房Web3.0(ウェブ・スリー)政策推進室」を設置した。室長である浅野 大介氏に話を聞いた。第2回ではweb3産業への期待、国による支援の方向性などについて語った。

(Web3.0政策推進室室長に聞く web3ビジネスの可能性 第2回/全2回)
第1回はこちら
web3_1129_01
経済産業省 経済産業局 産業資金課長/投資機構室長/大臣官房Web3.0政策推進室室長 浅野 大介氏

GIGAスクール構想でDX推進した浅野氏が取り組むweb3とは

今回web3推進を担当する浅野氏だが、これまで教育のDXを推進し高い成果を上げてきた。環境を整えるという面で重なる部分があり、web3に関しても急激に変化を起こしてくれる存在として期待が集まっている。

浅野氏は2018年に1人1台のタブレット式端末とEdTech(テクノロジーを用いて教育を支援する仕組みやサービス)を活用した教育改革プロジェクト「未来の教室」を推進し、その後文部科学省等と「GIGAスクール構想」を推進。2021年9月よりデジタル庁を併任し教育のDXを進めてきた。同時にサービス政策課長として、DX時代のスポーツ産業の事業環境整備やサービス業全体の労働生産性問題も担当した。

GIGAスクール構想とは、1人1台の端末をすべての子供が持つこと、それから高速大容量の通信ネットワークを整備して、様々な情報にアクセスして自分で編集できるようにすることを目的としたもの。

web3_1129_03
画像はイメージです

GIGAスクール構想の推進とweb3の推進には共通点が2つあるという。1つは複数の省庁が横断的に関わるということと、2つ目は前提を整えなければ始まらないということだ。

「『教育は文科省だけが所管している分野』だとは思っていません」と浅野氏。

「学校教育という観点では文部科学省が引っ張っていきますが、教育の先、経済の中なかで活躍できる人をどうつくるかという観点から経済産業省も他人事ではありません。省と省の間で意見が割れることもありますが、それを擦り合わせながら政策をつくっていくことが、未来の政策をつくるうえで極めて重要だと思います」

web3においても同じで、経済産業省、金融庁、デジタル庁などで力を合わせて推進していく必要がある。

「教育のDXを進めるといっても、1人1台の端末を持っていなければ意味がなかったので、まず物理的な面を進めていきました。web3に関しても、web3を推進しようといっても日本国内に事業をできる環境が整っていなければ意味がありません。共通するのは『あることが前提』という状態を早くつくろうということ。行政の仕事は前提条件を変えることだと思うので、web3の事業が当たり前に行えるようにする。どんな市場ができて世の中にどういう効果が生まれるかというのは事業環境ができた先にあることだと思っています」

ただ両者に異なる点もあり、web3を推進していくにあたっては、そこをどう乗り越えていくかが今後の課題になる。

「GIGAスクールは、こうしたらああなるという予想がついて、計画が立てやすいものでした。なぜなら私たち自身もパソコンを使って仕事をしているからです。web3の場合は世論がどういう受け止め方をするのか、どういう使われ方をするのかが、暗号資産というものをベースにして成り立ってるが故に見えにくいという懸念があります。後ろにスタンバイしている人たちがどの程度いて、どのぐらいの熱量なのかということを様子を見ながら、市場を形成する支援をしていきます」

NFTを活用したコミュニティ経済形成に期待

日本でのweb3分野の今後の可能性については「文化経済領域にインパクトを与えると認識しています」と浅野氏。

特定の主体を介することなく金融取引を実現するDe Fi(ディーファイ・分散型金融)という形態を利用することで、金融のアクセシビリティが低いことによる格差を解消するweb3ビジネスも出てきているが「日本にとってそこは少し遠い」という。日本ではほとんどの人が銀行口座やクレジットカードを所持しており、フィンテックの面では日本国内市場は海外に比べて劣っている。

「web3分野のビジネスを考えた時に日本において光が当たりやすいのはNFTでしょう。サッカーやバスケなどスポーツの分野でクラブトークンを使って、そのファンコミュニティを作る。アイドルの世界も同じです。コミュニティ経済を作っていくということが日本には合っているので、それをグローバルにどう展開していくかが重要になります」 と浅野氏は話す。

NFTは偽造・改ざん不能のデジタルデータであり、ブロックチェーン上で、デジタルデータに唯一性・非代替性を付与する機能を有し、取引履歴を追跡可能という特徴を持つ。

クリエイターやアーティスト、アスリートとファンの間で、NFTによるデジタルデータのやり取りが行われると、ファンは希少価値の高いファンアイテムに対して直接的に投資することができるようになる。限定の価値を高める手段としてNFTが普及しつつあり、たとえばスポーツ選手のデジタルカード等がNFTという形で販売・取引されている。

また、NFTに投票権を付与することで販売元の意思決定に関わることができるという点があり、スポーツチームの発行するクラブトークンによるMVP選手の選考投票なども実際に行われている。

日本は独自のエンタメ・カルチャーに強みを持っている。「推し活」など、アイドルやアーティストなどを応援する文化もすでにあるため、このコミュニティ経済とNFTの分野が今後さらに活性化していくことが予想される。

「NFT×ガチャ」の動きも活発化 スポーツに注目

2022年1月にはソフトバンク(東京都港区)や楽天グループ(東京都世田谷区)など民間企業30社が集まり、DX時代のスポーツ産業の振興とスポーツエコシステムの確立を目的としてスポーツエコシステム推進協議会(C-SEP)が設立。同協議会とブロックチェーン技術の健全な普及、発展に貢献するために2014年に設立された日本ブロックチェーン協会(JBA)も一緒になって、NFTとそのランダム型販売、いわゆるガチャに関する動きを活発化させている。この動きに参加したのは上記2団体と、ブロックチェーン推進協会(BCCC)、ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ(JCBI)、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)の5団体。

上記の5団体によると、NFTに関するビジネスが急速に発展している中でNFTのガチャサービスが注目を浴びており、それに伴い日本でも多くの事業者が二次流通市場サービスの提供を試みているという。しかし、NFTガチャは賭博罪の成否が明らかではないという観点で、事業者に萎縮効果が発生していることを懸念し、2022年10月、「NFT のランダム型販売に関するガイドライン」文書を発表した。

文書の中で『NFTのガチャと二次販売を組み合わせることは賭博ではない』として、法律家の意見も交えた上で民間ガイドラインとして自分たちの解釈を公表。賭博ではなく『ランダム販売』として消費者保護のために事業者が配慮すべき事項をまとめている。

「そういったNFTとガチャの組み合わせが日本でできる、できないという話題も民間主導で起こっていて非常に心強いです。NFTとガチャの領域では、スポーツが先陣を切るんじゃないかと考えています。スポーツとゲーム、スポーツとアート、スポーツとエンタメ等、スポーツを軸にして、ファンエンゲージメントやその他の様々な意味でのDXが最初のユースケースとして、エンタメの世界で出てくるのではないかと思います。あとはこの動きがどこまで広がっていくか、それをどうやって支援ができるかという点にも着目し対策を練っていきます」

NFTを活用した地方創生

また浅野氏は、日本でweb3が理解を得られやすい例のひとつとして、NFTを活用した地域活性、地方創生を挙げる。

新潟県長岡市山古志地域(旧山古志村山古志村)は、2021年12月、錦鯉をシンボルにし、電子住民票を兼ねたNFTアート「Colored Carp」を発売。日本の過疎地域が今後グローバルに関係する人口を創出するためのNFTの新たな活用提案となった。今ではリアル住民を超える数の「デジタル村民」がいるという。

web3_1129_04
画像はイメージです

また岩手県紫波町は2022年6月から、自治体として「web3タウン」を推進。web3技術を活用した新型地域通貨の発行に向けた活動や、ふるさと納税返礼品のNFT化、web3企業の誘致などを行っている。

「リアルとデジタルをかけ合わせ、ファンコミュニティ・ファンエコノミーを作っていくことが日本の得意分野なので、今後のNFTに関するビジネスとしてそこを意識するといいのではないでしょうか。日本の中だけに閉じるのではなく、海外にも事業を広げていってもらいたいと思います」と浅野氏。

「日本を拠点のひとつにしてもらうのが仕事」 

今後web3分野を率いていくであろうZ世代に対して浅野氏は、「これから事業を起こしたい人がしっかり挑戦できる環境を作るのが私たちの仕事です。若い世代が海外にどんどん出ていくことはパワフルで素晴らしく、悪いことではないのですが、『日本ではできないから』という理由であることは大変問題で、急いで解決しなければならないと思っています。日本を拠点のひとつにしてもらって、納税もしてもらえるような環境をつくっていきます」と制度改革に力を入れていくことを強調した。

この記事にリアクションして1ポイント!(※300ポイントで有料記事が1本読めます)

関連記事