
なお、スーパー耐久シリーズは、主に市販車をベースに改良した車両で争われる長時間耐久レース。プロからアマチュアまで幅広いチームが参戦し、実戦を通じた技術開発や人材育成の場としても注目されている。
S4ベースで進化 軽量化・応答性を高めたスバルの新型車両
スバルは2024年シーズン半ばから、それまでの「BRZ」ベース車からよりパワーが大きい「S4」ベース車両に変更していたが、その知見を活かして各所に改良を加えた。
具体的には、水平対向エンジンでは、ターボチャージャーの過給について、レース中の細かいアクセル操作でのトルクレスポンスを向上させた。
鈴鹿サーキットはS字コーナーなど繊細なアクセル操作が必要となる箇所が多く、実戦での効果が大きい。この技術は、量産車にも今後、フィードバックされる可能性が高い。車両の軽量化についても、ボディ各所で対応した。カーボンボンネットや、再生カーボンを使ったリアドアなどだ。また、技能五輪全国大会に出場したスバル社員が板金で製作したフロントフェンダーも採用している。
スバルに立ちはだかるトランプ関税とEVシフトの壁
スバルとしては、モータースポーツの現場活動で、社内各部署の関係者が同じ方向に向かって技術改良を行うことで、日常業務における新たな発想や社内の活気が生まれることを目指してきた。
実際、筆者はスバルの新型車の技術発表会や試乗会などで定常的に、様々な部署のスバル関係者と意見交換しているが、そうした会話の中でスーパー耐久が話題にあがることが少なくない。
モータースポーツの場合、車両やレース運営におけるレギュレーション(規定)が厳しく、その枠組みの中で短期間に技術改良を実現するプロセスを体験することで、量産車の開発に挑むエンジニアの姿勢が変わってきたという。さらにレースの現場で予期せぬトラブルが起こることも珍しくない。それを乗り越える精神力を鍛えることも、日常業務にプラスになっていると話す人もいる。
そうした中で、スバルの事業全体を俯瞰すると、直近ではやはり「トランプ関税」の影響を懸念する声が、スバルの開発・製造拠点である群馬県太田市周辺で聞こえてくる。
スバルは北米での販売が事業の大黒柱であり、日本からアメリカへの輸出量が多いからだ。
また、スバルの真骨頂である水平対向エンジンとシンメトリカルAWDの技術を、EVシフトのどのように活かしていき、その技術をユーザーにどのように訴求するのかが、今後の大きな課題である。
事業の転換期に直面しているスバルにとって、スーパー耐久シリーズへの挑戦は、スバル一丸となって未来を考える良き試練の場だと思う。
